9999年01月01日

予定情報

刊行予定
10月 『さよなら妖精【単行本新装版】』(東京創元社)
11月 『古典部中短篇集(仮題)』(角川書店 〈古典部〉シリーズ)

雑誌掲載等
9/10 「わたしたちの伝説の一冊」 (「文芸カドカワ」角川書店 〈古典部〉シリーズ)
12/12 「巴里マカロンの謎」 (「ミステリーズ!」東京創元社 〈小市民〉シリーズ)

(この頁は米澤が気がついたときに更新しています)
(正確な情報は出版社のサイトなどでご確認下さい)
(更新日時が9999年になっているのは、この項目をトップに表示するためです)
posted by 米澤穂信 at 00:00| 予定情報一覧

2016年09月10日

「わたしたちの伝説の一冊」


「文芸カドカワ」2016年10月号(KADOKAWA)収録
発売日:2016年9月10日



 でもそれは、くるしいことです。



 電子雑誌「文芸カドカワ」に寄稿した短篇です。

 神山高校の漫画研究会は二つに割れていた。自分でも漫画を描く人の部活なのか、それとも専ら読む人の部活なのか、活動方針の違いを巡って対立は日々深まるばかりだった。
 そんな中で伊原摩耶花は、漫研の浅沼から同人誌に寄稿しないかと誘いを受ける。部費で同人誌を作り、それを部活の実績として既成事実化することで対立を有利に運ぼうというのだ。自分の漫画が部内の争いに使われることに違和感を覚えつつ、描く機会があるならと伊原は誘いに前向きになる。ただ、寄稿するためには先に何枚描くかを決める必要があると言われ、ページ数確定のために返答はいったん保留することになった。

 しかし企みはあっさりと露見し、浅沼たちは部内の承認も得ずに部費を盗もうとしたと糾弾される。新しい部長は、浅沼たちに条件を突きつけた。烏合の衆の同人誌などどうせ完成はしない、企画が失敗したら、混乱の責任を取って全員退部せよ、と……。
 漫研内部の対立が泥沼と化していく中でも、伊原は淡々と漫画を描き続ける。しかし状況は彼女の自由を許さなかった。
 ある日、伊原の創作ノートが盗まれたのだ。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2016年08月10日

「箱の中の欠落」


「文芸カドカワ」2016年9月号(KADOKAWA)収録
発売日:2016年8月10日



「福部里志の話なら夜の散歩ぐらい付き合うのも面白いが、副委員長の相談だったら委員会に持ち帰ってくれ」



 電子雑誌「文芸カドカワ」に寄稿した短篇です。

 ある日、夕食に焼きそばを作っていた折木奉太郎に電話がかかってくる。福部里志から、散歩をしないかという誘いの電話だった。折木は何かあると察し、焼きそばをさっさと平らげて里志と合流する。
 初夏の夜、街中を歩きながら、里志は学校であったことを話す。……総務委員会の仕事で生徒会選挙の開票に立ち会ったところ、投票総数が神山高校の全生徒数よりも多かったというのだ。
 誰がやったか、何故やったかはともかく、どうやってやったかを突き止めないことには再選挙もできない。困っているのだ、と里志は話す。
 折木は夜空を見上げ、
「帰った方がよさそうだな」
 と呟いた。

 ハウダニットのミステリであり、古典部の彼らの(比較的)ふだんの様子でもあります。
 高校生はよく食べる、という話でもあります。

タグ:〈古典部〉
posted by 米澤穂信 at 13:55| 雑誌等掲載短篇

2016年06月27日

「野風」


「ユリイカ」2016年7月号(青土社)収録
発売日:2016年6月27日 雑誌定価:1,300円



 鎌倉が焼け室町が倒れ、何ぞ江戸のみとこしえに栄えようか。瓦解の日こそ満願成就、死ぬぞ、死ぬぞ、何千何万と死ぬぞ。



 雑誌「ユリイカ」の特集、「ニッポンの妖怪文化」に寄稿した短篇です。

 江戸生まれの鉄太郎は、郡代に任ぜられた父親に伴って草木深い鄙の地に移ったが、少々退屈していた。ある日、ふと思いついて天性寺裏の墓地に入り込んだ彼は、流罪の末に果てた加藤光広の墓を見つける。あわれを覚え手を合わせた鉄太郎に、嘲弄の声がかけられる。
「物知らずのこわっぱが、ほざきおる」
 振り返れば、いましも異形の影が山の奥へと駆けていくところ。若年とはいえ新影流を学んだ鉄太郎は、いざとなれば刀に物を言わせるつもりで、逃がすものかと影を追った……。


 本歌は雨月物語から「白峯」です。
 古来名文中の名文と称えられた白峯にならうのは恐ろしいことですが、初読時は解説付きでもわからなかった白峯が学習を進めるに従って一語一語の意味が明らかになっていった喜びを忘れがたく、今回機会を頂き、及ばずながら本歌取りを試みました。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2016年03月22日

連続刊行記念


 こんにちは。米澤です。

(2016.3.22追記)

 トークイベントの開催日時が5月14日(土)14時から(2時間程度を予定)と決定しました。
 場所は、東京都内でいろいろ探しています。候補は絞れているようなので近日中にはお知らせできると思います。

 また、応募の締切は2016年3月末日(消印有効)となっています。

(追記おわり)


 今年は『王とサーカス』と『真実の10メートル手前』というシリーズ作品を立て続けに上梓することが出来ました。
 連続刊行はそうそうないことですから、記念の意を込めて、二冊とも買って下さった読者の方にささやかなお礼をしようという企画が持ち上がりました。


『王とサーカス』と『真実の10メートル手前』のオビには、応募券がついています。
 これを両方揃えて東京創元社に送って下さった方から、抽選で30名様をA賞としてトークイベント(2016年5月開催)にご招待いたします。また、100名様にB賞として特製図書カード1000円分をお贈りします。

 A賞のトークイベントとB賞の図書カード、両方に応募することは出来ません
 また、応募は一人一口までとなっています。
 詳細、お問い合わせ先は東京創元社のサイトをご覧ください。


 トークイベント……どうしよう……。
 と、当日までに何か用意しておきます。

 どうぞ、よろしくお願いいたします。
posted by 米澤穂信 at 00:00| イベント告知

2016年02月26日

「竹の子姫」


「GRANTA JAPAN with 早稲田文学 03」(早川書房)収録
発売日:2016年2月26日 雑誌定価:1,944円



  父に、和尚に、里の皆にわかってもらおうとは思わない。おのれは竹林や山野を巡る中で、無数の虫たちから、いのちを学んだ。いのちのありようは無数にあることを、誰に教わることなくひとり感得していったのだ。母が死に、乳母が死に、なぜおのれは生きているのか、虫の生き死にを見つめるうちに少しずつ納得することができた。




 ムック「GRANTA JAPAN with 早稲田文学」に寄稿した短篇です。

 美母衣の里の春日長者はたいそうな物持ちで、人も多く使い都と商いをしておおいに富み栄えていた。
 その娘は竹の子姫と名付けられ、母は早くに亡くしたが、気丈に爛漫に育っていた。
 ある日、竹の子姫は蛹を見つけ、ここから蝶が出てくるのだと教わった。それを期に姫は虫を好み、地を蓄えるため山野を巡るようになる。
 無邪気な歳月は速く過ぎ、年頃になった竹の子姫に縁談が持ち込まれる。春日長者に呼び出された竹の子姫は、ふたつのことを言い渡される。ひとつは、決められた家に嫁ぐこと。もうひとつは、薄気味の悪い虫好みをやめること。
 竹の子姫はすぐに答えた。
「嫌でございます」
 それから、姫の人生は一変していく。

 一万字で、という条件を頂いていました。
 子供の頃はよく竹の子を掘ったものです。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2016年01月12日

「いまさら翼といわれても」

「野性時代」(角川書店)収録
発売日:(前篇掲載号)2015年12月12日 (後篇掲載号)2016年1月12日



  いまさら翼といわれても、困るんです。




 雑誌「野性時代」に寄稿した中篇です。

 高校生活二度目の夏休みを楽しんでいる折木奉太郎に、思いもかけず、伊原摩耶花からの電話がかかってきた。
「ちーちゃんの行きそうなところ、知らない?」
 千反田はその日、市が主催するイベントで合唱のソロパートを務めることになっていた。それが、集合時刻を大幅に過ぎても姿を見せないのだという。単に寝坊したのだろうと返す折木だが、どうやらそうではないらしい。
 千反田が合唱イベントの会場に向かうバスに乗るところを目撃した人物がいるというのだ。

 取りあえず会場に向かった折木は伊原の他、合唱サークルの関係者に事情を聞き、千反田を捜し始める。手がかりになるのはバス時刻表、雨傘と日傘、そして千反田がソロパートを受け持っている合唱曲「放生の月」……。

 最新の時刻表を持って現場に駆けつけた里志に、折木は言った。
「だいたいの察しはついてる。捜し出せるさ」



 前後編構成の中篇となっています。
 多くの人物は千反田の居場所を求めていますが、折木が求めているのは、それではありません。

タグ:〈古典部〉
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2015年12月31日

今年の総括です


 こんにちは。米澤です。

 今年は前半を『王とサーカス』(東京創元社)に費やし、後半にバラエティに富む仕事をしていた印象があります。
 実は昨年来少し体調を崩してしまい、『王とサーカス』は自分のコンディションとにらめっこをしながらじりじりと書いていくことになりました。昨年中には上梓できる予定だったことを思えば、今年7月刊行というのは不甲斐なくも待っていた読者のみなさまに申し訳ない結果ではあるのですが、自分の印象としては、ようやく刊行に辿り着けてずいぶんほっとしたというのが偽らざるところです。

 7月の『王とサーカス』刊行後は、東京で二ヶ所、名古屋、大阪でそれぞれ一ヶ所、合計四ヶ所でのサイン会という初めての経験をさせて頂きました。
 酷暑の中かつスケジュールの合間を縫った(「ミステリーズ!新人賞」の選考会が近かったのです!)タフなイベントでしたが、振り返ればずいぶん晴れがましく、楽しいものだったと思います。
 整髪料を持っていくのを忘れて深夜の名古屋駅をうろうろしたり、大阪のモダン焼きに舌鼓を打ったりいたしました。

 また、6月には『リカーシブル』(新潮社)が文庫化されました。
 これの単行本を出すとき、ゲラ作業はゆえあって北海道でやったことを思い出します。
 文庫化にあたって、装幀は清潔感と謎めいた感じが両立する素敵なものになりました。本書の主人公ハルカの気負いようは、好きです。長く手にとってもらえる一冊になればと思っています。

 8月には雑誌「ダ・ヴィンチ」9月号(メディアファクトリー)で特集を組んで頂きました。
 これはなかなかたいへんなお仕事だったはずなのですが、それよりもいろんな方とお話しできた楽しさばかりが思い出されます。杉江松恋さんと私の全仕事を振り返ったインタビューは、あれ何時間ぐらいかかりましたか。長いとまったく思っていなかったので、時計を見てびっくりしたものです。打てば響くような辻村深月さんとのお話も楽しかった。別れ際にほうとうの美味しい店を教えてもらったのですが、現地に行く時間が取れず、後の原稿に反映させられなかったのは残念です。
「CREA」12月号には西崎憲さんとの対談が載りました。対談の場では圧倒されるばかりで見当外れのことばかり話していたような気がしますが、誌面ではうまくまとめて頂きました。

 短篇は10月、「オール讀物」(文藝春秋)に「重い本」を書きました。
 これは〈甦り課〉シリーズの三作目、そろそろゴールが見えてきたかなと思いつつ、まだもう少し仕掛けることが残っています。
 また、12月から二ヶ月連続で、「野性時代」(KADOKAWA)に「いまさら翼といわれても」を載せていただくことになりました。〈古典部〉の新作です。読んで下さったみなさまの反応が楽しみでもあり不安でもあり、この仕事をしていて、刊行直前のいまがいちばん浮き足立つ時期です。

 そして12月に、『真実の10メートル手前』(東京創元社)を出すことが出来ました。
 遡れば、最初に書いた短篇はもう八年前のものです。ずいぶん長い間、太刀洗万智の小説を書いてきたんだなと感慨深くなります。『王とサーカス』の刊行から間を空けずに短篇集を出せたのは、ほとんど偶然です(経緯は『真実の10メートル手前』のあとがきをご覧下さい)。が、素敵な偶然でした。

 年末には各種ミステリランキングで『王とサーカス』を高く評価していただきました。光栄です。
 来年は長篇一冊、短篇集一冊を出したいと目論んでいます。いいものになりますように。いいものをお届けできますように。

 今年もありがとうございました。来年もがんばります。


posted by 米澤穂信 at 16:50| 近況報告

2015年12月25日

『真実の10メートル手前』


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著:米澤穂信
写真:岩郷重力+K.K
装幀:岩郷重力+K.K
出版社:東京創元社

発売日:2015年12月25日
定価:本体1,400円(税別)
四六判上製
ISBN:978-4-488-02756-8



 ところで目とは、そこにあるものを見るための器官ではありません。




 20冊目です。

『王とサーカス』の経験を経て、太刀洗万智は一人のフリー記者として歩み始めました。
 彼女の仕事を収めた短篇集をお届けします。

 折を見て書き溜めていた短篇が一冊にまとまりました。
 最初の短編は実に8年前に書かれています。推協賞受賞記念のものや、アンソロジーに向けたもの、機会を見つけて書いてきたものが長篇と同じ年に本になるとは、感慨深い巡り合わせです。


真実の10メートル手前
 失踪したベンチャー企業の広報担当者が、その妹に電話をかけてきた。東洋新聞大垣支局の記者・太刀洗は、電話の内容だけを手がかりに単独インタビューを試み、名古屋駅から特急「しなの」に乗る。

正義漢
 東京都吉祥寺駅で乗客が線路に転落、轢死し、電車は運行を停止した。別ルートを模索するひとびとの中で、不審な動きをする女性がいた。

恋累心中
 三重県の恋累(こいがさね)で、高校生の男女が心中した。現場に向かう週刊誌記者に、上司は取材コーディネーターを手配していた。「癖はあるが、切れるやつだ」。

名を刻む死
 福岡県鳥崎市で、独居老人が亡くなっているのが見つかった。遺体の第一発見者の中学生に、太刀洗が接触を試みる。彼女の取材目標はひとつ、『名を刻む死』とはなにか。

ナイフを失われた思い出の中に
 神奈川県浜倉市で、男子高校生が姪を刺殺したとして自首、逮捕される。その数日後、東欧のある国から男性が浜倉を訪れる。ある思い出のために……。

「綱渡りの成功例」
 長野県南部を襲った台風により、西赤石市は大きな被害を受けた。大きな土砂崩れからかろうじて生き延びた住人に、太刀洗は取材を試みる。なぜ、いまなのか。なぜ、その問いなのか。(書き下ろし)

posted by 米澤穂信 at 00:00| 既刊情報

2015年12月10日

評価を頂きました


 こんにちは。米澤です。

 年の瀬となりまして、毎年恒例のミステリランキングが各社から発表されています。
 拙作『王とサーカス』が、宝島社の「このミステリーがすごい!」、文藝春秋の「週刊文春ミステリーベスト10」、早川書房の「ミステリが読みたい!」の三つのランキングにおいて1位を頂きました。

 昨年に続き高い評価を頂きまして、これはさすがに、驚きが先に立ちました。
 毎年、各種ランキング本を参考に「今年はこういうミステリがあったのか」と胸を躍らせていた昔日を思うに、感慨深いものがあります。

『王とサーカス』を多くの方々に楽しんで頂けたこと、とても嬉しく思っています。
 次作もがんばります。ありがとうございました。
posted by 米澤穂信 at 00:00| お知らせ

2015年12月08日

岐阜県図書館講演会




 申込受付満数終了です。
 ありがとうございます。



 こんにちは。米澤です。

 2016年1月10日、岐阜県図書館で行われる「ぎふけん・おすすめの1冊コンクール」表彰式に伴い、講演をさせていただくことになりました。

 テーマは「小説の故郷」としています。
 話すことはあまり得意ではありませんが、いろいろ考えていきます。ゆるゆるお話しさせていただければと思っています。

 入場料は無料ですが、会場の都合により入場できるのは250名までとなります。
 詳しくは岐阜県図書館のサイトでご確認ください。


 では、当日を楽しみにしています。
posted by 米澤穂信 at 00:00| イベント告知

2015年12月01日

『真実の10メートル手前』サイン会


 こんにちは。米澤です。

『真実の10メートル手前』の刊行に際し、サイン会を開いて頂けることになりました。
 場所は池袋と横浜です。
 横浜には何度か遊びに(より正確には、白菜のクリーム煮を食べに)行っていますが、サイン会は初めてです。


【池袋】
三省堂書店 池袋本店様

12月1日をもちまして、池袋会場は申込受付満数終了です。
ありがとうございます。
以下は当日のご案内のために残してあります。

日 時:2015年12月19日(土)15:00 〜
場 所:三省堂書店 池袋本店 別館地下1階 特設会場
定 員:100名
 
参加方法:2015年12月1日(火)午前10:00時より下記WEBサイトにて、参加券引換券の予約受付開始。

三省堂書店西部池袋本店サイン会受付URL
http://eventregist.com/e/honobu


【横浜】
紀伊國屋書店 横浜店様

12月6日をもちまして、横浜会場は申込受付満数終了です。
ありがとうございます。
以下は当日のご案内のために残してあります。

日 時:2015年12月20日(日) 16:00 〜
場 所:紀伊國屋書店横浜店店内特設会場
定 員:100名

参加方法:12月1日(火)午前10時より、電話および店頭にて予約受付開始。
電話番号:045-450-5901
(横浜店代表/受付時間:10:00〜20:00)

紀伊國屋書店横浜店詳細URL
https://www.kinokuniya.co.jp/c/store/Yokohama-Store/20151201095500.html



 年の瀬の慌ただしい時期ではありますが、おいで頂ければ嬉しいです。
 当日、どうぞよろしくお願いいたします。
posted by 米澤穂信 at 16:26| イベント告知

2015年10月22日

「重い本」


「オール讀物」2015.11(文藝春秋)収録
発売日:2015年10月22日 雑誌定価:980円



 あの子はこれから、どんな本を読んでいくんでしょうな。無理に読ませる気はないが、薦める本はつい考えます。




 雑誌「オール讀物」に寄稿した短篇です。

 いったん無人となった蓑石村、現在の南はかま市蓑石にふたたび人を呼び戻そうという試みは、幾度ものトラブルに見舞われていた。
 入居者のひとり久保寺は、アマチュアの歴史研究家として何冊か単著も出しており、入居者の中でも目を惹く経歴の持ち主だった。大量の本に囲まれ、豊かに、そして孤独に暮らしてきた彼の家を、新しく近所に引っ越してきた家の子供、速人くんが頻繁に訪れる。目当ては妖怪を描いた本らしい。久保寺は速人くんの訪問を、内心で嬉しがっているようだった。

 しかしある日、市の出張所に、速人くんが帰ってこないという電話がかかってきた。いつものように「本の小父さん」のところに遊びに行くと言って家を出たきり、戻ってこないのだという。急行した市役所職員が調べたところ、状況から見て、やはり久保寺の家に行ったのだろうとしか考えられないことがわかったが、その久保寺家は堅く戸締まりされている。留守だったのだ。
 速人くんはどこに消えたのか。日没が迫り、各人に焦りが見え始めた時、職員のひとりがふと久保寺の話を思い出す。
 そういえばこの家について、久保寺さんは何か気になることを言っていた……。

軽い雨』『黒い網』に続くシリーズものです。
 前作を踏まえている部分はないので、単独でもお読み頂けるかと思います。

タグ:〈甦り課〉
posted by 米澤穂信 at 23:51| 雑誌等掲載短篇

2015年08月16日

三都物語です


 こんにちは。米澤です。

 新刊『王とサーカス』(東京創元社)の発売に伴い、七月末から八月上旬にかけて、四ヶ所でサイン会を開いていただきました。
 ……東京以外でのサイン会もちょくちょく経験があるとはいえ、四ヶ所というのはさすがに初めてです。各百人の定員ですので、計四百人。それほどの読者は来て下さるのか、そして私の体力が保つのか、いろいろ不安はあったものの楽しみにしていました。

 最初は池袋、次は新宿会場でした。
 新宿は、これまでも幾度もお世話になっている紀伊國屋書店新宿本店さんが会場でしたので、勝手もわかっています。控室から会場までのルートに始まって、手伝っていただく係の方の動線、手洗場の場所まで把握していますので、心配なことはありませんでした。
 ですがジュンク堂池袋本店さんは初めて。何が出来るというわけでもないのですが少し早めに行って、あちらこちらと見てまわっているうち、サイン会に来て下さる読者の方と鉢合わせして少しお話したりもしました。

 池袋会場は四会場で最初に、新宿会場は最後にサイン会整理券の配布を始めたのですが、どちらも即日予約満了となりました。池袋は「(単行本が一年以上ぶりなので)大丈夫かな……」、新宿は「(既に300人分以上の整理券が各所で配布済みなので)大丈夫かな……」と思っていましたが、蓋を開けてみればこの結果、これにはさすがに驚き、大勢の方が待っていて下さったのだと実感するといろいろ思うところもあり。
 当日は遠方の東北、北海道、中国地方、中国からの読者にも来て頂いていました。喜んで頂けていればいいなと思います。

 翌週は名古屋、大阪とまわりました。
 名古屋は滞在時間が短く、名古屋駅の周辺しか見ることが出来なかったのですが、やはり人々の装いが華やかですね。休日ということもありましたが、名古屋駅島屋前、待ち合わせの名所大時計のまわりは、パステルカラーからビビッドカラーまで一通り揃うように思うほど、実に色彩が豊かでした。
 男性は無柄のシャツを、女性は何かイベントがあったのか、それとも夏のお出かけの定番なのか、浴衣姿を多く見かけました。あれがほんとの名古屋帯……だったのかどうかは、よく見ませんでしたけれども。

 星野書店近鉄パッセ店さんで開かれたサイン会はスムーズに進み、一人あたりほんの一言二言ぐらいではありましたが、読者の方々とお話し出来たのは嬉しいことでした。名古屋でのサイン会は『秋期限定栗きんとん事件』以来でしたが、前回も来て下さった方も、幾人かいらっしゃいました。既に結構な月日が流れていますが、私の本を読み続けてくださったのだと思うと、ありがたい限りです。

 スケジュールの都合上、翌日の昼は新幹線の車内で駅弁と食べることになっていましたので、名古屋で帰る駅弁をいろいろ調べ、楽しみにもしていました。ところが当日は暑さにやられたのかいまひとつ食欲がなく、味の濃いものは避けたい気分でしたので、帆立の炊き込みご飯に落ち着きました。おいしかったのですが、名にし負う名古屋飯を食べ損ねたような気がしたのは、残念ではあります。

 大阪での会場は紀伊國屋書店グランフロント大阪店さんでした。とにかく灼熱の日で、空調の効いた控室に入った瞬間、「生きて辿り着けた……」という思いを禁じ得ませんでした。
 会場の壁には、驚いたことに、『王とサーカス』の舞台であるネパールの写真が幾枚も飾られていました。それも、小説に関わりのある場所や道具を選ぶ凝りようです。拙作からの引用文も掲示されていて、たいへん嬉しく、感慨深いことでした。
 近畿には講演会などでしばしば伺っていたのですが、大坂でのサイン会は『折れた竜骨』以来、二回目になります。こちらでも、前回のサイン会にも来て下さったという方が大勢いらっしゃいました。

 当日は大坂に泊まりました。
 サイン会場で読者の方から頂いたメッセージで梅田においしいお好み焼き屋があると知ったので、そちらで昼を済ませたのですが、なるほどおいしかった。供されたのは私がイメージしていたモダン焼きとは異なる食べ物でしたが、名物に旨いものなしの諺を覆す経験でした。
 せっかくと思い難波から心斎橋にかけて少し歩きましたが、歩いている人々の服装が基本的にモノトーンであることに驚きました。白と黒を上手に組み合わせ、ほとんど色を使わない。もし使うとしたら、目を欺くような綺麗な赤や深い緑を思い切って使う。柄はないか、あるとしても細いストライプで、チェックはまったく見かけませんでした。
 吉祥寺一ヶ所を見て東京全体のファッションを語るような愚を犯しているのかもしれませんが、シックやスタンダードを良しとする文化があるのかなと感じる滞在でした。

 帰り、この一週間は少したいへんだったので楽しいことをしても良かろうと、新幹線の中でスジャータのアイスクリームを優雅に頂く予定でした。
 しかしころりと眠ってしまい、気がついたら新幹線は小田原駅を通過。慌てて買った白桃のアイスはアイスクリームではなく幾分かシャーベットに近いアイスミルク、おいしいのですが望んでいた食感ではなく、ついでに言えばかちこちに凍っていたので表面をスプーンでつついているうちに新横浜に到着し、品川までの十数分で一気呵成にかきこむ羽目になりました。
 これ違う、私が予定していた優雅なアイスクリームタイムとは違うという悔いが残りましたので、またいずれ機会がありましたら、出張サイン会にお招きいただきたいと思います。

 関係者の皆さま、サイン会に来て下さった皆さま、ありがとうございました。
posted by 米澤穂信 at 17:38| 近況報告

2015年08月15日

「真実の10メートル手前」


「ミステリーズ!」vol.72 AUGUST 2015(東京創元社)収録
発売日:2015年8月12日 雑誌定価:1,296円



 今回だけは、美しく撮る必要がある。




 雑誌「ミステリーズ!」に寄稿した短篇です。

 東洋新聞大垣支局に勤める太刀洗万智は、名古屋本社に掛け合ってカメラマンを一人借り受けると、名古屋駅から特急「しなの」に乗り込んだ。
 目的は、あるIT企業のマスコット的存在だった女性のコメントを取ること。その女性は会社の破綻に伴って失踪し、あらゆるメディアがその行方を捜していた。太刀洗は独自のルートから情報を手に入れ、どこよりも速く彼女のコメントを記事にしようと目論んでいた。
 彼女の居場所を推理するために与えられた条件は、数分の通話記録だけ。しかし太刀洗はその言葉の端々に、重要なヒントを見出していく。
 やがて到着したある街で太刀洗は取材対象の足取りを追い、徐々に彼女へと近づく。推理の手がかりを隈なく拾い上げ、彼女までの距離は、10メートルを切ろうとしていた。


王とサーカス』と同じく、太刀洗万智が主役の短編になります。
 ミステリとしては、テキスト読解ものということになるかと思います。

posted by 米澤穂信 at 23:20| 雑誌等掲載短篇

2015年07月30日

『王とサーカス』


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著:米澤穂信
写真:岩郷重力+K.K
装幀:岩郷重力+K.K
出版社:東京創元社

発売日:2015年7月29日
定価:本体1,700円(税別)
四六判上製
ISBN:978-4-488-02751-3



「信念を持つ者は美しい。信じた道に殉じる者の生き方は凄みを帯びる。だが泥棒には泥棒の信念が、詐欺師には詐欺師の信念がある。信念を持つこととそれが正しいことの間には関係がない」




 19冊目です。

 新聞社に勤めていた太刀洗万智は、やむを得ない事情から五年目にして職を辞し、フリーの記者として生きていこうとする。
 雑誌社から紹介された仕事に便乗し、事前取材と休暇を兼ねて何気なく訪れたネパールで、彼女は大事件に遭遇した。入国の翌日、ネパール国王が殺されたのだ。
 伝えることを自らの仕事と考える太刀洗は、カメラを手に取材を始める。突然の大事件に混乱する人々の声を聞き取るうち、彼女は幸運にも、国王殺害の現場近くにいた軍人と会う機会を得る。指定された場所に向かいながら、太刀洗は奇妙な緊張を覚えていた。この取材は、危険なのではないか?
 彼女の予感は当たった。しかし危険は、想像とは別の形で襲ってきた。
 ――太刀洗万智はこの国で、自らの信念を問われることになる。


 長篇ミステリです。
さよなら妖精』とは登場人物の一部が共通していますが、続篇というわけではありません。
 作中で取り上げられる事態の「真犯人」を当てるのは、ちょっと骨が折れる仕事になるでしょう。
posted by 米澤穂信 at 00:12| 既刊情報

2015年07月01日

『王とサーカス』サイン会


 こんにちは。米澤です。

『王とサーカス』(東京創元社)の刊行に際し、サイン会を開いて頂けることになりました。
 場所は東京です。
 そして東京です。
 さらに名古屋です。
 しかも大阪です。
 ……本当に?


【東京・池袋】
ジュンク堂書店 池袋本店様

7月2日をもちまして、池袋会場は申込受付満数終了です。
ありがとうございます。
以下は当日のご案内のために残してあります。

日 時:2015年7月31日(金)19:00 〜
場 所:ジュンク堂書店池袋本店 1階エントランスにて
定 員:100名
 
参加方法:2015年7月1日(水)午前10:00時より3階カウンターにて、もしくはお電話にてご予約いただいた方に参加整理券を配布いたします。
電話:03-5956-6111(月〜土10:00-23:00・日・祝10:00-22:00)

ジュンク堂書店池袋本店詳細HP
http://www.junkudo.co.jp/mj/store/event_detail.php?fair_id=9541



【東京・新宿】
紀伊國屋書店 新宿本店様

7月11日をもちまして、新宿会場は申込受付満数終了です。
ありがとうございます。
以下は当日のご案内のために残してあります。

日 時:2015年8月1日(土) 17:00 〜
場 所:紀伊國屋書店新宿本店 8階 イベントスペース
定 員:100名 

参加方法:2015年7月11日(土)午前10:00時より2階レジカウンターにて参加整理券を販売いたします。
*お電話でのご予約は整理券残部がある場合のみ、7月13日(月)午前10:00より承ります。

紀伊國屋書店新宿本店詳細HP
https://www.kinokuniya.co.jp/c/store/Shinjuku-Main-Store/20150701103913.html



【名古屋】
星野書店 近鉄パッセ店様

7月19日、名古屋会場の申込受付満数終了を確認しました。
ありがとうございます。
以下は当日のご案内のために残してあります。

日 時:2015年8月8日(土) 15:00 〜
場 所:星野書店近鉄パッセ店 店内特設会場にて
定 員:100名 

参加方法:2015年7月1日(水)午前10:00時よりレジカウンターにて参加整理券を販売いたします。
*お電話でのご予約は整理券残部がある場合のみ、7月2日(木)午前10:00より承ります。
電話:052-581-4796(10:00〜21:00)

星野書店近鉄パッセ店詳細HP
http://bkhoshino.html.xdomain.jp/



【大阪】
紀伊國屋書店 グランフロント大阪様

7月3日をもちまして、大坂会場は申込受付満数終了です。
ありがとうございます。
以下は当日のご案内のために残してあります。

日 時:2015年8月9日(日) 15:00 〜
場 所:紀伊國屋書店グランフロント大阪店 店内特設会場にて
定 員:100名 

参加方法:2015年7月1日(水)正午より1番カウンター、もしくはお電話にてご予約、お買いあげの先着100名様に整理券を配布いたします。
電話:06-7730-8451(10:00〜21:00)

紀伊國屋書店グランフロント大阪様詳細HP
https://www.kinokuniya.co.jp/contents/pc/store/Grand-Front-Osaka-Store/20150701115817.html




 二ヶ所までは経験がありましたが、四ヶ所は私も初めてです。
 どの会場も、賑わってくれるといいのですが……。

 体力が切れないよう、がんばります。
 当日、どうぞよろしくお願いいたします。
posted by 米澤穂信 at 00:00| イベント告知

2015年06月26日

『リカーシブル』


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(四六判)
著:米澤穂信
装画:笹部紀成
装幀:新潮社装幀室
出版社:新潮社

発売日:2013年1月22日
定価:本体1,600円(税別)
四六判仮フランス装
ISBN:978-4-10-301473-7

(文庫判)
著:米澤穂信
装画:笹部紀成
装幀:新潮社装幀室
出版社:新潮社

発売日:2015年6月26日
定価:本体750円
ISBN:978-4-10-128783-6



「バカじゃないの。あんたは人の話をどう聞いてたのよ」
 喉の痛みを忘れ、わたしは叫ぶ。
「強くないから、強いふりするんでしょ!」




 17冊目です。

 中学一年生の越野ハルカは、家の都合で母の故郷に引っ越してきた。新しい環境に戸惑いながらも何とか学校になじもうと、ハルカは神経を張り詰める。その甲斐あってか、在原リンカという友人を得ることができた。

 その一方で、弟のサトルには奇妙なことが起きていた。
 この町で、これから起きることがわかるというのだ。かまってほしくて言った嘘だと、ハルカはサトルに取り合わない。
 しかしある日、サトルの言葉通りに小さな事件が起き、そして言葉通りに解決する。

 そしてサトルは、泣き出しそうになりながら、学校へと続く橋を怖がる。
「ここから落ちた人がいるんだ。ぼく、知ってる」

 ……この町はどこかおかしい。



 長篇ミステリです。
 彼女のしあわせを願っています。
posted by 米澤穂信 at 00:00| 既刊情報

2015年03月27日

『星読島に星は流れた』


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著:久住四季
装画:星野勝之
装幀:岩郷重力+WONDER WORKZ。
出版社:東京創元社

発売日:2015年3月20日
定価:本体1,600円
四六判仮フランス装
ISBN:978-4-488-01788-0


 久住四季の新刊刊行にあたり、オビ文を書かせていただきました。
 オビの裏表紙にあたる部分に、少し長い推薦文を寄せています。表紙部分の一文はそこから採られています。
 ここにその推薦文の全文を載せます。

天上へのあこがれと地上の欲求とが交わる一点で殺意が生まれる、その構図が美しい。胸おどる舞台設定と、ロジックを扱う手つきの確かさに、ミステリを読む楽しみとはこういうものだったと嬉しくなる。『星読島に星は流れた』という題もいい。久住四季の新たなる一歩に接し、たちまちその第二歩が待ち遠しくなった。

 なにぶんミステリですので、書きすぎるわけにはいきません。ですが、楽しく読んだということだけは何とかお伝えしたいと思っていました。
「題もいい」という素っ気ない一文に、読後、同意していただけることを願っています。
posted by 米澤穂信 at 06:03| 解説・推薦・編纂

2014年12月26日

『蝦蟇倉市事件〈2〉』『街角で謎が待っている』


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(四六判)
著:秋月涼介/北山猛邦/越谷オサム/桜坂洋/村崎友/米澤穂信
装画:佐久間真人
装幀:岩郷重力+WONDER WORKZ。
出版社:東京創元社

発売日:2010年2月24日
定価:1,785円
四六判仮フランス装
ISBN:978-4-488-01762-0

(文庫判)
解説:福井健太
装画:田中寛崇
装幀:西村弘美
出版社:東京創元社

発売日:2014年12月26日
定価:972円(税込)
文庫判
ISBN:978-4-488-40058-3

 東京創元社が編んだアンソロジー企画『蝦蟇倉市事件〈2〉』に拙作「ナイフを失われた思い出の中に」を寄稿しました。
 文庫判は『街角で謎が待っている』と改題されています。
 以下に収録作一覧を記します。

秋月涼介「消えた左腕事件」
北山猛邦「さくら炎上」
越谷オサム「観客席からの眺め」
桜坂洋「毒入りローストビーフ事件」
村崎友「密室の本」
米澤穂信「ナイフを失われた思い出の中に」
posted by 米澤穂信 at 00:00| 共著・アンソロジー