2030年01月01日

予定情報

刊行予定
4末『冬期限定ボンボンショコラ事件』(東京創元社)

雑誌掲載等
(予定なし)

(この頁は米澤が気がついたときに更新しています)
(正確な情報は出版社のサイトなどでご確認下さい)
(更新日時が2030年になっているのは、この項目をトップに表示するためです)
posted by 米澤穂信 at 00:00| 予定情報一覧

2023年07月28日

『愛蔵版〈古典部〉2』予約受付が始まりました


 こんにちは。米澤です。

『愛蔵版〈古典部〉シリーズII クドリャフカの順番・遠まわりする雛』の予約受付が始まりました。
 今回は特典として、『クドリャフカの順番』執筆時に用いた自筆創作メモを印刷、収録しています。
 予約締切は8月31日、ご予約はお近くの書店や、KADOKAWA公式サイト(右上の「購入する」ボタンから進めます)、または一部通販サイトで受け付けています。

 どうぞよろしくお願いいたします。

posted by 米澤穂信 at 19:12| お知らせ

2023年07月25日

『可燃物』


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(かねんぶつ)


著:米澤穂信
装幀:野中深雪
出版社:文藝春秋

発売日:2023年7月25日
定価:1,700円(税別)
四六判上製
ISBN:978-4-16-391726-9



打てる手は全部打つというわけだな。いいだろう。



 28冊目です。

 遭難したスノーボーダーが発見された。一人は重傷、そしてもう一人は死体となって。県警葛班は捜査本部に加わり、殺人容疑で捜査を開始する。犯人はわかっている、だが、凶器がない……。
 雪降る崖下の、凶器なき殺人。――「崖の下」

 強盗致傷事件が発生。犯人の「稼ぎ」は少額で、事件は続発するおそれが大きい。強行軍で捜査する捜査本部に、最有力被疑者が交通事故を起こしたという一報が入る。
 葛の前に現れたのは、あまりにも好都合な証言者たちだった。――「ねむけ」

 花咲く行楽地で、切り刻まれた死体が発見された。捜索が行われ、死体の部位は次々に発見される。遺体の身元も判明し、捜査は着々と進展するが、葛は事件の全体像とかみあわない一点を決して看過しなかった。すなわち……犯人はなぜ、死体を刻んだのか?――「命の恩」

 強風地帯で連続放火事件が発生する。葛班が捜査に乗り出すが、その途端犯行は停止した。捜査員の存在がばれたのか? でなければ……。
 カギは、この街でかつて発生した、痛恨事の中にある。――「可燃物」

 県警本部に帰還中の葛班は、急遽、移動経路上で発生した立てこもり事件の応援に駆けつける。避難は完了しているか、負傷者はいないか、現場の建物の構造は……情報を収集する葛班の前に、立てこもり犯が姿を見せる。その手には「拳銃」が。――「本物か」

 部下も、上司も、自分の立場も未来もすべて眼前の事件解決のために注ぎ尽くして悔いない葛警部が、人智の限りを尽くして挑んだ事件集です。
 警察ミステリをお届けします。推理をお楽しみ頂ければ、幸いです。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 既刊情報

2023年07月21日

『時代小説 ザ・ベスト2023』


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(じだいしょうせつ ざ・べすと2023)


出版社:集英社
編纂:日本文藝家協会
発売日:2023年7月21日
定価:1,034円(税込)
文庫判


 歴史時代小説のアンソロジーに、拙作「供米」を採って頂きました。
 収録作は次の通りです。

佐々木功「したのか、家康」
矢野隆「母でなし」
今村翔吾「山茶花の人」
米澤穂信「供米」
伊吹亜門「遣唐使船は西へ」
木下昌輝「証母」
蝉谷めぐ実「凡凡衣裳」
斜線堂有紀「奈辺」
武川佑「遠輪廻」
花房観音「鬼の里」

posted by 米澤穂信 at 00:00| 共著・アンソロジー

2023年07月04日

『可燃物』トークイベントが開催されます


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 こんにちは。米澤穂信です。

 雪降る崖下の、凶器なき殺人。――「崖の下」
 あまりにも好都合な証言者たち。――「ねむけ」
 切り刻まれ、花咲く行楽地に撒かれた死体。――「命の恩」
 過去の痛恨事が招く、小さくも危険な事件。――「可燃物」
「本物か」という問いが導く犯人像。――「本物か」

『可燃物』刊行を記念し、8月19日(土)18:00からトークイベントが開催されます。
 オンラインとリアル(於 文藝春秋西館地下ホール)のダブル開催です。
 参加費はリアル参加が1210円(税込)、オンライン参加が660円(税込)で、どちらもアーカイブ(オンライン上で後から見られる録画)が用意されます。
 リアル参加は先着100名で、こちらにご参加いただいた上で『可燃物』をご持参いただければ、イベント後のサイン会にご参加いただけます。
 完全ネタバレのイベントとなります。

 チケットの販売開始は、7月7日(金)正午です。
 お申し込み方法など、イベント詳細は、


 をご覧ください。
 当日を楽しみにしています。

posted by 米澤穂信 at 12:14| お知らせ

「本物か」


掲載誌:「オール讀物」(文藝春秋)2023年7月号


……本物か?


 国道沿いのファミリーレストランで立てこもり事件が発生。偶然近くにいた葛班が現場に向かうと、姿を現した犯人の手には「拳銃」が。
 本物か? 客や従業員の避難は完了しているのか?
 部下が集めてくる証言者の話を、葛は一つずつ検討する。あのファミリーレストランで、あの瞬間、何があったのか。それがわかれば、「本物」は見抜けるはずだ。
 変形フーダニット。

posted by 米澤穂信 at 00:27| 雑誌等掲載短篇

2023年03月02日

『愛蔵版〈古典部〉シリーズI 氷菓・愚者のエンドロール』


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(あいぞうばん こてんぶシリーズ 1)


著:米澤穂信
出版社:KADOKAWA

発売日:2023年3月2日
定価:4,500円(税別)
四六変形判
ISBN:978-4041124604



きっと十年後、この毎日のことを惜しまない。



〈古典部〉シリーズの愛蔵版が刊行されることになりました。
 初刊時、書店に勤務していた私は『氷菓』の売り上げデータを見て、これでは作家という仕事を続けていけまいと思いました。
 その後、角川文庫から再刊されてから今日に至るまで、多くの読者に愛していただき、大切にしていただいて、〈古典部〉は恵まれたシリーズへと育って行きました。思いもかけなかった、しあわせなことです。
 そして今日、愛蔵版の刊行に至りました。ありがとうございます。

 今回愛蔵版の刊行に当たって、以下の二編を追加しています。

 一つ目は、『プールサイドにて』です。
 これは〈古典部〉シリーズが『氷菓』の題名でアニメ化された時、特典エピソードとして作成された『持つべきものは』の原案を、改めて小説の形で書き直したものです。
 夏休みの一日を描いた、〈日常の謎〉です。

 二つ目は、『クリスマスは箱の中』です。
 これは新人賞への応募原稿『ありうべきよすが』(という題名だったのです)に含まれており、『氷菓』への改稿時に編集者さんとご相談の上で削除した、暗号ミステリです。
 私はこのお話を、アニメ版『氷菓』のBD-BOXに収録されるコミック特典の原作として再構成しました(後にコミック版『氷菓』の11巻に収録されています)。
 今回、このエピソードを改めて小説の形に書き直しました。
 クリスマスを巡る、古典部四人の小さな謎解きです。

 お楽しみ頂き、ご愛蔵いただけますよう、心から願っています。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 既刊情報

2023年01月20日

「命の恩」


掲載誌:「オール讀物」(文藝春秋)2023年2月号


 親父を嫌っていた人は、大勢いるでしょう。でも、殺すほどに憎んでいた人は思い当たりません。いえ、ひょっとしたら酒のはずみで暴力を振るったり、振るわれたりしたこともあったかもしれませんが、それで親父が死んだとして……ばらばらにされるようなことは、なかったと思います。


 夏の行楽シーズン、榛名山麓でバラバラ死体が発見された。ただちに特別捜査本部が設置される。
 捜査を担当する葛警部補は、次々に寄せられる死体発見報告を受けながら、「なぜ」と自問する。なぜ死体は切断されたのか? なぜ榛名山麓に捨てたのか。それがわからなければ、たとえ被疑者を逮捕しても事件は終わるまい……。
 被害者の過去を辿り、唯一の「なぜ」を解き明かす捜査が始まる。

posted by 米澤穂信 at 22:54| 雑誌等掲載短篇

2022年12月22日

「プロムナード」


 2022年7月から12月までの各木曜日、日経新聞夕刊にエッセイを寄せました。
 以下はその題名です。

1.五稜郭
2.瑞泉寺
3.高山陣屋
4.チャプター・ワン
5.目黒川の桜
6.全生庵
7.岸和田城
8.落穂拾い
9.東慶寺
10.六義園
11.都立中央図書館
12.そこにマイセン
13.スコーンと白米
14.スパゲティとパスタ
15.そばと牛乳
16.井の頭の恋
17.青淵文庫
18.刀を見た話
19.絵を見た話
20.会見を聞いた話
21.おちょぼさん
22.哲学の道
23.金毘羅堂

 いずこかのどなたかのつれづれのおともになっていれば、幸いです。

posted by 米澤穂信 at 00:00| お知らせ

2022年12月09日

「倫敦スコーンの謎」


掲載誌:「紙魚の手帖」vol.8


お菓子作りとは科学であり、再現性がある


 高校で調理実習が行われる。本場のロンドンで食べたことがあるから任せてと胸を張る生徒が焼いたスコーンは、しかし酷い失敗に終わった。
 レポートを課せられた小佐内は途方に暮れる。「わたしが見る限り、手順は完璧だったの」。お菓子作りには再現性がある。手順が正しくて、たまたま失敗したりはしない。しかし、何を失敗したのか?
 推理が始まる……クラスの人間関係に、波風を立てないために!

タグ:〈小市民〉
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2022年11月25日

「それから千万回の晩飯」


掲載誌:「小説野性時代」(KADOKAWA)特別編集2022年冬号


 承知致したきはやまやまながら、まだ約束のものも少々あり且、この月廿日から歸省しますので(□□□したンですからね)今月中には承合いかねます、せめて四月一杯として戴けませんか。それでも宜しかったら書きます。


 山田風太郎賞を受けた「私」に届いた一葉の葉書、それは、編集者だった妻の大叔父が山田風太郎から受け取った、原稿依頼の断り状だった。風太郎曰く、「山田三兄弟」の誼みもあるが、今は書けない……。
 山田三兄弟とは、誰々を言うのだろう。帰省の理由は? この葉書は何年のものなのか。そして何より、妻の大叔父は山田風太郎から原稿を受け取れたのだろうか。
 数々の疑問を胸に、「私」は資料を辿り始める。それは終戦直後の東京に、若き山風と若き編集者の交流を追う旅の始まりとなった。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2022年11月13日

『タイム・リープ』帯文


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 こんなにも美しく、すべてが組みあがっていくなんて。傑出したSFであると同時に、ルールが公平さを保証する名作ミステリ。



 この小説において時間は解体され、欠片となる。パズルが隙なく組みあげられた時、読む者はその構造美に感嘆するだろう。


著:高畑京一郎
出版社:KADOKAWA(メディアワークス文庫)
上下巻

 上記復刊の帯文をお任せいただきました。
『タイム・リープ』が特徴的なのは、時間が行き来しつつも、同じ時間は二度と訪れないという条件設定にあります。このルールがあるため「空白の時間」を埋めていく作業が可能になり、構造は強固に、美しくなるのです。そこには、ミステリの楽しみがあります。
 本書が広く読まれる一助になることを願っています。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 解説・推薦・編纂

2022年11月05日

『南無殺生三万人』帯文


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魔風なおも逆巻く――
なんと妖美に歴史を彩るのだろう
山田風太郎、奇想奔放たり


著:山田風太郎
出版社:宝島社(宝島社文庫)

 上記新編の帯文をお任せいただきました。
 収録作の中では、生きることの喜びを高らかに歌い上げ、政治の化物と成り果てた家康をも魅了する「慶長大食漢」が最も好きです。
 武田・徳川の今川侵攻を描いた「姦臣今川状」、戦国の法から平時の法へ移り変わる時はこのようなこともあったかと思わせる「南無殺生三万人」が、それに次ぎます。
 本書が広く手に取られる一助になればと思います。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 解説・推薦・編纂

2022年11月04日

『栞と嘘の季節』


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(しおりとうそのきせつ)


著:米澤穂信
装幀:坂野公一(welle design)
出版社:集英社

発売日:2022年11月10日
定価:1,650円(税別)
四六判仮フランス装
ISBN:978-4-08-771813-3



わたしたちは切り札を持たなきゃいけなかった



 27冊目です。

『本の鍵と季節』の続編です。
 松倉詩門が図書室に来なくなり、堀川次郎は図書委員の仕事を続けつつ、友を待っていた。そして彼は帰ってきた……不在の期間など、ただの一日もなかったかのように。そして二人は元通り、放課後の図書委員としての務めを再開する。だが、いつもの業務は、いつものようには始まらなかった。
 返却本に挟まっていた、忘れ物の栞――松倉はそこに用いられている花が、猛毒のトリカブトだと気づく。余計なお世話かもしれないが、栞の持ち主にひとこと、これは毒だと教えた方がいいかもしれない。堀川と松倉がそう考え、栞を特別な場所に隠した時、彼らはこの街で静かに始まっていた事件にかかわってしまった。

 栞は、誰が何のために作ったのか。同学年の瀬野を加え、三人は毒と嘘の迷路に踏み込む。
 そして、誰にも知られないはずだった過去が、あばかれてゆく。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 既刊情報

2022年10月06日

『元禄おさめの方』帯文


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妖風いまだ止まず――
得がたい珠玉に、またも巡りあった
山田風太郎に底はないのか


著:山田風太郎
出版社:宝島社(宝島社文庫)

 上記新編の帯文をお任せいただきました。
 本書の中では表題作「元禄おさめの方」が圧巻、白眉です。一人の女性の死を通じて、元禄という時代、綱吉という「暗君」への見方に変更を迫る、迫力ある一篇でした。
 本書が広く手に取られる一助になることを願います。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 解説・推薦・編纂

『アブナー伯父の事件簿』帯文


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ここにはミステリとアメリカ、
それぞれの若き日の姿がある。
そこでは敬神と合理、
法の尊重と自力救済が
矛盾なく同居している。


著:M.D.ポースト
出版社:東京創元社(創元推理文庫)

 上記復刊の帯文をお任せいただきました。
 アブナー伯父は特異な人物です。私の中ではブラウン神父(カトリック)、修道士カドフェル(修道会)、そしてこのアブナー伯父(プロテスタント)が敬虔なる名探偵の三巨頭なのですが、アブナー伯父だけが聖職に就いていません。畑を耕し、牛を飼い、そして事件とその解決の中に神の手を見るのです。私はそれを、アメリカらしいと思います。
 本書が広く手に取られる一助になればと思います。

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2022年08月23日

『殺意』解説


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著:井上靖
出版社:中央公論新社(中公文庫)
解説:米澤穂信

 井上靖の小説群からサスペンスに富む作品を特に選んだオリジナル短篇集の、解説をお任せいただきました。身に余る光栄です。
 初めて読んだときからそのおそろしさ、かなしさが胸から離れない「雷雨」は、やはり何度読んでもいいものでした。作中の双璧は「傍観者」「ある偽作家の生涯」でしょう。高潔と俗悪を二つながらに描き出す井上靖の筆の冴えについては、いまさら私などが何を言うまでもないことでありますが、新しい読者の入口になればと願うばかりです。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 解説・推薦・編纂

2022年08月03日

『沈黙のセールスマン』帯文


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 自らの性分に振りまわされ、打ちのめされ、自らがぼろぼろであることを理解しながらも、他人の問題を解決する仕事を天職とし、すべてをそれに捧げて生きる男。
 私はアルバート・サムスンが好きです。
(ミステリマガジン2022年9月号より)


著:マイクル.Z.リューイン
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫)


 上記復刊の帯文をお任せいただきました。
『沈黙のサラリーマン』は、アルバート・サムスンシリーズの最高傑作であると同時に、私にとっては大いなる謎です。捜査と推理の小説として圧倒的な面白さを備えながら、その面白さを、うまく言葉で説明できずにいるのです。
 シリーズの中では、『消えた女』が本作と並ぶ傑作です。アルバート・サムスンシリーズが広く手に取られる一助になればと思います。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 解説・推薦・編纂

2022年06月25日

「三つの秘密、あるいは星ヶ谷杯準備滞ってるんだけど何かあったの会議」


掲載誌:「小説野性時代」(KADOKAWA)vol.224


「じゃあ、会議を始めます。題して――星ヶ谷杯準備滞ってるんだけど何かあったの会議。よろしくお願いします」



 神山高校伝統のマラソン大会、星ヶ谷杯。その開催が間近に迫る中、運営を司る総務委員会は問題を抱えていた。準備が一向に進まないのだ。
 問題に対応するため、用意を担当する「ルート誘導班」「用具調達班」「救護・計時班」の班長が集められ、会議が開かれる。司会を担当するのは総務委員会副委員長、福部里志。そして、かの美しいテンプレート、責任のなすりつけ合いが始まった。
 会議ミステリです。責任の所在を明らかにするか、それとも、問題解決を第一に掲げるか。匙加減はすべて、福部里志に任されています。

タグ:〈古典部〉
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2022年04月05日

ご挨拶を申し上げました


 過日、芥川賞・直木賞の贈呈式が行われました。その際のスピーチの一部は報道でも伝えられましたが、そのほかの部分について、こちらでざっくり要約します。



 読者の皆様、選考委員の諸先生、関係者の皆さまにお礼申し上げます。とりわけ、私にはこの小説が書けると私よりも強く信じて下さった担当編集者さん、すべてを支えてくれた妻に、別して感謝を捧げます。
 拙作が遠くまで飛んで行ってしまい、私自身は仕事部屋の窓から、自分の小説が飛んでいくのを見送っているような気分です。

 私は『黒牢城』をミステリとして書き、ミステリとして万全を期すため、十六世紀日本の文化や慣習、人の心を精緻に描こうとしました。一休禅師のものと伝えられる「分け上る麓の道は多けれど同じ雲井の月を眺むる」という道歌に似て――どうも本人の作ではないようですが――、ミステリという登山口から上り始めても小説の普遍性という大きなものに触れることは出来るのだと、肯定されたように感じています。

 よきミステリであろうとした『黒牢城』は、その必然的な結果として、組織や軍事、統治についての小説としても書かれることになりました。ただ私は書いてゆく中で、もう一つ、当時の人々が何を恐れ何にすがったのか、すなわち信仰についてどうしても描かなければならないと感じつつ、それをためらいました。読者がそれを喜ぶだろうかと思ったからです。
 しかし私は、『折れた竜骨』が山周賞の候補になった時の選評を憶えてもいました。

 そこでは、浅田次郎先生と篠田節子先生が異口同音に、この小説は思想や精神を書くべきだったと指摘されていました。北村薫先生が、この小説は本格ミステリであることが思想なのだと仰って下さったことを嬉しく思い、私自身、『折れた竜骨』はあれで完成なのだと考えています。しかし一方で、もしいつの日か再び中世人を扱うことがあるならば、当時の人々の心の柱を書くことを恐れるまいと誓ったことを、思い出したのです。
 おそれを捨て、誓いを果たせたことを、嬉しく思います。



 ありがとうございました。

posted by 米澤穂信 at 00:00| お知らせ