2020年02月21日

『消えた脳病変』解説


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著:浅ノ宮遼
カバーイラスト:牧野千穂
カバーデザイン:大岡喜直(next door design)
出版社:東京創元社

発売日:2020年2月21日
定価:本体680円(税別)
文庫判


 第11回ミステリーズ!新人賞の選考過程で「消えた脳病変」に巡り会った時は、ずいぶん昂奮したものです。一読、あまりにも「これだ」という思いが強すぎて、何か見落としていないか不安になったほどです。
 単行本が刊行された時、その受賞作「消えた脳病変」に匹敵するクオリティの短編が並んでいることに驚き、嬉しくなりました。今回解説をお任せいただいたことは、まことに光栄です。

 作中の医師たちは、やり方は違えど、ただひたすらに仕事をしています。奇矯な行動は何一つしていません。それでも(それだからこそ)、人間味が滲み出てくる。私はこの本が好きです。
 微力ながら、この本が多くの方の手に渡る手伝いが出来ていればと願っています。

posted by 米澤穂信 at 00:00| お知らせ

2020年02月10日

「花影手柄」


掲載誌:「カドブンノベル」2020年 1月号・2月号・3月号
発売日:2019年12月10日・2020年1月10日・2月10日


 武士たるものすべては戦、起き伏しも飯を食うことも、仏のことも宝のこともこれすなわち戦じゃ。されば茶は、茶だけは戦にするまいと思うておった。……が、出来なんだ。



「カドブンノベル」に前中後編で寄稿した中編小説です。

 初戦を防ぎ切り、荒木村重の謀叛は長期化しつつあった。士気を保つために勝利を欲する村重は、城の東側に小規模な陣地が築かれつつあることに気づいた。格好の獲物とばかり村重は夜襲を試み、見事に勝利する。だが、その勝利こそが、有岡城に新たなる危機を生じさせた。

 夜襲に用いられたのは、三部隊。村重が直率する御前衆。降伏開城した高槻城から脱出した、高山大慮(ダリヨ)率いる高槻衆。大坂本願寺の命で有岡城に入った、鈴木孫六率いる雑賀衆である。御前衆は村重を守って攻撃には参加せず、陣を攻めたのは高槻衆と雑賀衆だった。
 陣を築いていた織田勢はまともな抗戦も出来ず、総崩れに逃げ去った。それもそのはず、寄せ手は敵将を討ち取っていたのだ。だが……高槻衆が挙げた首、雑賀衆が挙げた首、どちらが敵将の首なのかが判然としない。

 天下に武名を鳴らす大手柄を上げたのは、果たしてどちらか。
 手柄争いは思いもかけず、南蛮宗と一向宗の争いに発展する。誰が見ても納得する裁定を村重が下さない限り、城内は二つに分断されてしまう。そうなれば、落城も時間の問題である。

 時間は残されていない。村重はふたたび、地下牢の囚人――黒田官兵衛の知恵を借りることを決意する。
 だが官兵衛の興味を引いたのは、「誰が敵将を討ち取ったか」ではなかった……。


 被害者は織田の将。容疑者は夜襲に加わった荒木勢。
 つまり、フーダニットです。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇