2020年06月27日

「友情」


掲載紙:「北國新聞」「富山新聞」
発売日:2020年6月27日


  神父さま。私はこの年まで教会というところには来たことがない人間ですが、ここでは懺悔というものを聞いていただけるというので、とうとう来てしまいました。どうか私の話を聞いて、もし出来れば、こんな私にも赦しはあるとおっしゃってください。



「北國新聞」「富山新聞」に寄稿した掌編です。

 ある教会に、男たちが懺悔に訪れる。彼らは罪を犯し、それを悔い、失われた友情に思いを馳せていた。だが彼らは、彼らの身に起きたことをすべて知っていたわけではなかった。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2020年06月22日

「崖の下」


掲載誌:「オール讀物」
発売日:2020年6月22日


  群馬県杉平町杉平警察署に遭難の一報が入ったのは、二月四日土曜日の午後十時三十分のことだった。通報者は鏃岳スキー場でロッジ「やじり荘」を経営する芥見正司で、一一〇番ではなく杉平警察署に直接電話をかけ、夕食までに戻るはずの客が戻らないと訴えた。十時五十六分にロッジに警官が到着し、事情聴取をしたところ、埼玉県上庄市から来た五人連れの客のうち、四人が戻っていないことが確かめられた。



「オール讀物」に寄稿した短編です。

 群馬県のスキー場で遭難事故が発生し、速やかに救助隊が組織された。
 遭難した四人のうち二人は、崖下の谷筋に落下しているのが見つかった。一人はすぐに救急搬送されたが、意識不明の重体である。そしてもう一人は、崖の下に残された。他殺体だったからだ。

 厳冬期、深夜の山中に、第三者がいたというのは考えにくい。犯人は救急搬送された遭難者で間違いない。
 だが、遭難者が犯人だと考えると、一つどうしても解けない謎が残る。……現場に凶器が残されていないのだ。
 遭難者の意識回復を待って事情聴取すれば、わかるかもしれない。だが意識はいつ戻るかわからず、意識が戻った遭難者が素直に自白するとは限らない。

 県警捜査一課の葛警部は部下に命じ、あらゆる情報を集める。
 果たして「何が」被害者の命を奪ったのか。
 指揮官に、一人で考える時間などほんの僅かしかない。そして葛は、そのわずかな時間に沈思する。


 ハウダニット!
 せっかくですから、葛警部に先んじて「凶器」の正体を当てられるか、試していただければ幸いです。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

「里芋病」


掲載誌:「小説現代」
発売日:2020年6月22日


 あなたのためを思ってという言葉は、相手を制御したいという毒をどこかに潜ませている。けれど私たちの場合は違うはずだ。



「小説現代」に寄稿した掌編です。

 妻は死を恐れる。自分自身のそれをではなく、身近な人に死の影が射すことをひどく怖がる。
 だから私は、妻に話すことが出来ない。――自分がしばしば、奇妙な汗をかくことを。
 私はこの汗をかく症状をもたらす何かを、「里芋病」と呼んでいる。


「day to day」に寄稿した「ありがとう、コーヒーをどうぞ」とたぶん同じ日の、別のふたりのお話です。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2020年06月06日

「ありがとう、コーヒーをどうぞ」


掲載誌:「tree
公開日:2020年6月6日


 雨はいつでも降るし、どんな時でも季節は巡るものだ。



「tree」の企画「day to day」に寄稿した掌編です。
 秘密の職場のお話です。

 マグカップはどこにあったか、少々鈍感なのは誰だったかというお話でもあります。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇