2022年11月25日

「それから千万回の晩飯」


掲載誌:「小説野性時代」(KADOKAWA)特別編集2022年冬号


 承知致したきはやまやまながら、まだ約束のものも少々あり且、この月廿日から歸省しますので(□□□したンですからね)今月中には承合いかねます、せめて四月一杯として戴けませんか。それでも宜しかったら書きます。


 山田風太郎賞を受けた「私」に届いた一葉の葉書、それは、編集者だった妻の大叔父が山田風太郎から受け取った、原稿依頼の断り状だった。風太郎曰く、「山田三兄弟」の誼みもあるが、今は書けない……。
 山田三兄弟とは、誰々を言うのだろう。帰省の理由は? この葉書は何年のものなのか。そして何より、妻の大叔父は山田風太郎から原稿を受け取れたのだろうか。
 数々の疑問を胸に、「私」は資料を辿り始める。それは終戦直後の東京に、若き山風と若き編集者の交流を追う旅の始まりとなった。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2022年11月13日

『タイム・リープ』帯文


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 こんなにも美しく、すべてが組みあがっていくなんて。傑出したSFであると同時に、ルールが公平さを保証する名作ミステリ。



 この小説において時間は解体され、欠片となる。パズルが隙なく組みあげられた時、読む者はその構造美に感嘆するだろう。


著:高畑京一郎
出版社:KADOKAWA(メディアワークス文庫)
上下巻

 上記復刊の帯文をお任せいただきました。
『タイム・リープ』が特徴的なのは、時間が行き来しつつも、同じ時間は二度と訪れないという条件設定にあります。このルールがあるため「空白の時間」を埋めていく作業が可能になり、構造は強固に、美しくなるのです。そこには、ミステリの楽しみがあります。
 本書が広く読まれる一助になることを願っています。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 解説・推薦・編纂

2022年11月05日

『南無殺生三万人』帯文


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魔風なおも逆巻く――
なんと妖美に歴史を彩るのだろう
山田風太郎、奇想奔放たり


著:山田風太郎
出版社:宝島社(宝島社文庫)

 上記新編の帯文をお任せいただきました。
 収録作の中では、生きることの喜びを高らかに歌い上げ、政治の化物と成り果てた家康をも魅了する「慶長大食漢」が最も好きです。
 武田・徳川の今川侵攻を描いた「姦臣今川状」、戦国の法から平時の法へ移り変わる時はこのようなこともあったかと思わせる「南無殺生三万人」が、それに次ぎます。
 本書が広く手に取られる一助になればと思います。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 解説・推薦・編纂

2022年11月04日

『栞と嘘の季節』


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(しおりとうそのきせつ)


著:米澤穂信
装幀:坂野公一(welle design)
出版社:集英社

発売日:2022年11月10日
定価:1,650円(税別)
四六判仮フランス装
ISBN:978-4-08-771813-3



わたしたちは切り札を持たなきゃいけなかった



 27冊目です。

『本の鍵と季節』の続編です。
 松倉詩門が図書室に来なくなり、堀川次郎は図書委員の仕事を続けつつ、友を待っていた。そして彼は帰ってきた……不在の期間など、ただの一日もなかったかのように。そして二人は元通り、放課後の図書委員としての務めを再開する。だが、いつもの業務は、いつものようには始まらなかった。
 返却本に挟まっていた、忘れ物の栞――松倉はそこに用いられている花が、猛毒のトリカブトだと気づく。余計なお世話かもしれないが、栞の持ち主にひとこと、これは毒だと教えた方がいいかもしれない。堀川と松倉がそう考え、栞を特別な場所に隠した時、彼らはこの街で静かに始まっていた事件にかかわってしまった。

 栞は、誰が何のために作ったのか。同学年の瀬野を加え、三人は毒と嘘の迷路に踏み込む。
 そして、誰にも知られないはずだった過去が、あばかれてゆく。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 既刊情報