2015年08月16日

三都物語です


 こんにちは。米澤です。

 新刊『王とサーカス』(東京創元社)の発売に伴い、七月末から八月上旬にかけて、四ヶ所でサイン会を開いていただきました。
 ……東京以外でのサイン会もちょくちょく経験があるとはいえ、四ヶ所というのはさすがに初めてです。各百人の定員ですので、計四百人。それほどの読者は来て下さるのか、そして私の体力が保つのか、いろいろ不安はあったものの楽しみにしていました。

 最初は池袋、次は新宿会場でした。
 新宿は、これまでも幾度もお世話になっている紀伊國屋書店新宿本店さんが会場でしたので、勝手もわかっています。控室から会場までのルートに始まって、手伝っていただく係の方の動線、手洗場の場所まで把握していますので、心配なことはありませんでした。
 ですがジュンク堂池袋本店さんは初めて。何が出来るというわけでもないのですが少し早めに行って、あちらこちらと見てまわっているうち、サイン会に来て下さる読者の方と鉢合わせして少しお話したりもしました。

 池袋会場は四会場で最初に、新宿会場は最後にサイン会整理券の配布を始めたのですが、どちらも即日予約満了となりました。池袋は「(単行本が一年以上ぶりなので)大丈夫かな……」、新宿は「(既に300人分以上の整理券が各所で配布済みなので)大丈夫かな……」と思っていましたが、蓋を開けてみればこの結果、これにはさすがに驚き、大勢の方が待っていて下さったのだと実感するといろいろ思うところもあり。
 当日は遠方の東北、北海道、中国地方、中国からの読者にも来て頂いていました。喜んで頂けていればいいなと思います。

 翌週は名古屋、大阪とまわりました。
 名古屋は滞在時間が短く、名古屋駅の周辺しか見ることが出来なかったのですが、やはり人々の装いが華やかですね。休日ということもありましたが、名古屋駅島屋前、待ち合わせの名所大時計のまわりは、パステルカラーからビビッドカラーまで一通り揃うように思うほど、実に色彩が豊かでした。
 男性は無柄のシャツを、女性は何かイベントがあったのか、それとも夏のお出かけの定番なのか、浴衣姿を多く見かけました。あれがほんとの名古屋帯……だったのかどうかは、よく見ませんでしたけれども。

 星野書店近鉄パッセ店さんで開かれたサイン会はスムーズに進み、一人あたりほんの一言二言ぐらいではありましたが、読者の方々とお話し出来たのは嬉しいことでした。名古屋でのサイン会は『秋期限定栗きんとん事件』以来でしたが、前回も来て下さった方も、幾人かいらっしゃいました。既に結構な月日が流れていますが、私の本を読み続けてくださったのだと思うと、ありがたい限りです。

 スケジュールの都合上、翌日の昼は新幹線の車内で駅弁と食べることになっていましたので、名古屋で帰る駅弁をいろいろ調べ、楽しみにもしていました。ところが当日は暑さにやられたのかいまひとつ食欲がなく、味の濃いものは避けたい気分でしたので、帆立の炊き込みご飯に落ち着きました。おいしかったのですが、名にし負う名古屋飯を食べ損ねたような気がしたのは、残念ではあります。

 大阪での会場は紀伊國屋書店グランフロント大阪店さんでした。とにかく灼熱の日で、空調の効いた控室に入った瞬間、「生きて辿り着けた……」という思いを禁じ得ませんでした。
 会場の壁には、驚いたことに、『王とサーカス』の舞台であるネパールの写真が幾枚も飾られていました。それも、小説に関わりのある場所や道具を選ぶ凝りようです。拙作からの引用文も掲示されていて、たいへん嬉しく、感慨深いことでした。
 近畿には講演会などでしばしば伺っていたのですが、大坂でのサイン会は『折れた竜骨』以来、二回目になります。こちらでも、前回のサイン会にも来て下さったという方が大勢いらっしゃいました。

 当日は大坂に泊まりました。
 サイン会場で読者の方から頂いたメッセージで梅田においしいお好み焼き屋があると知ったので、そちらで昼を済ませたのですが、なるほどおいしかった。供されたのは私がイメージしていたモダン焼きとは異なる食べ物でしたが、名物に旨いものなしの諺を覆す経験でした。
 せっかくと思い難波から心斎橋にかけて少し歩きましたが、歩いている人々の服装が基本的にモノトーンであることに驚きました。白と黒を上手に組み合わせ、ほとんど色を使わない。もし使うとしたら、目を欺くような綺麗な赤や深い緑を思い切って使う。柄はないか、あるとしても細いストライプで、チェックはまったく見かけませんでした。
 吉祥寺一ヶ所を見て東京全体のファッションを語るような愚を犯しているのかもしれませんが、シックやスタンダードを良しとする文化があるのかなと感じる滞在でした。

 帰り、この一週間は少したいへんだったので楽しいことをしても良かろうと、新幹線の中でスジャータのアイスクリームを優雅に頂く予定でした。
 しかしころりと眠ってしまい、気がついたら新幹線は小田原駅を通過。慌てて買った白桃のアイスはアイスクリームではなく幾分かシャーベットに近いアイスミルク、おいしいのですが望んでいた食感ではなく、ついでに言えばかちこちに凍っていたので表面をスプーンでつついているうちに新横浜に到着し、品川までの十数分で一気呵成にかきこむ羽目になりました。
 これ違う、私が予定していた優雅なアイスクリームタイムとは違うという悔いが残りましたので、またいずれ機会がありましたら、出張サイン会にお招きいただきたいと思います。

 関係者の皆さま、サイン会に来て下さった皆さま、ありがとうございました。
posted by 米澤穂信 at 17:38| 近況報告