2016年02月26日

「竹の子姫」


「GRANTA JAPAN with 早稲田文学 03」(早川書房)収録
発売日:2016年2月26日 雑誌定価:1,944円



  父に、和尚に、里の皆にわかってもらおうとは思わない。おのれは竹林や山野を巡る中で、無数の虫たちから、いのちを学んだ。いのちのありようは無数にあることを、誰に教わることなくひとり感得していったのだ。母が死に、乳母が死に、なぜおのれは生きているのか、虫の生き死にを見つめるうちに少しずつ納得することができた。




 ムック「GRANTA JAPAN with 早稲田文学」に寄稿した短篇です。

 美母衣の里の春日長者はたいそうな物持ちで、人も多く使い都と商いをしておおいに富み栄えていた。
 その娘は竹の子姫と名付けられ、母は早くに亡くしたが、気丈に爛漫に育っていた。
 ある日、竹の子姫は蛹を見つけ、ここから蝶が出てくるのだと教わった。それを期に姫は虫を好み、地を蓄えるため山野を巡るようになる。
 無邪気な歳月は速く過ぎ、年頃になった竹の子姫に縁談が持ち込まれる。春日長者に呼び出された竹の子姫は、ふたつのことを言い渡される。ひとつは、決められた家に嫁ぐこと。もうひとつは、薄気味の悪い虫好みをやめること。
 竹の子姫はすぐに答えた。
「嫌でございます」
 それから、姫の人生は一変していく。

 一万字で、という条件を頂いていました。
 子供の頃はよく竹の子を掘ったものです。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇