2019年02月10日

「雪夜灯籠」


掲載誌:「文芸カドカワ」2019年 1月号・2月号
発売日:2019年1月10日・2月10日


 荒木摂津守様。摂津守様はいったい、なにを斯様に恐れておられるのか。武士の習いを曲げ――織田に楯突いてまで――なにをそれほど恐ろしゅう思うておいでか。官兵衛それが知りとうござる。それを、お聞かせ願いたい。



「文芸カドカワ」に前後編で寄稿した短編です。

 織田信長の家臣にして、空前の出世を果たした荒木村重は、何を思ったか突然叛旗を翻し摂津は伊丹の有岡城に立て籠もった。信長は説得を断念、名だたる将たちに大軍を率いさせ有岡へと差し向ける。
 風雲急を告げる有岡城で、奇怪な事件が起きた。

 荒木方であった大和田城が織田に寝返ったため、大和田城から取った人質、安部自稔の処遇が問題となる。誰もが自稔は見せしめに斬られると思っていたが、村重はその命を助け、かれを牢に入れると宣言する。
 しかし、牢が出来上がるまでの僅か一日のあいだに、安部自稔は殺されてしまう。
 その死に様は、目に見えぬ矢で貫かれたとしか思えない不可思議なものであった。

 自稔の死は仏罰だ、いやあれは村重による成敗なのだ。さまざまな噂が乱れ飛び、将兵は動揺する。
 噂が自分への悪評に変わりつつあることに気づいた時、村重は、この殺人事件を解決して人心を収攬しない限り有岡城は持たぬと直感した。
 しかし村重がどれほど知恵を絞ろうと、自稔殺しの真相は見えてこない。

 有岡城には一人だけ、村重を上まわる知謀の持ち主がいた。
 もう二度と会うこともないと思っていたその男に知恵を借りるため、村重は地下牢へと下りていく。
 地下牢の男――すなわち、黒田官兵衛である。


 雪の密室殺人事件です。
 
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇