2019年05月22日

「白い仏」


掲載誌:「オール讀物」2019年 6月号
発売日:2019年6月1日


 あの仏像は家の守り、村の守護、子々孫々に至るまでゆめゆめ動かすべからず



「オール讀物」に寄稿した短編です。

 無人の廃村に移住者を招いてから数ヶ月。簑石に冬が訪れた。
 ある日、甦り課の垂水と観山は、移住者のひとり長塚昭夫に呼び出される。くだくだしい話を要約すると、移住者のひとり若田一郎が秘蔵している仏像を見られるよう、甦り課に便宜を図ってもらいたいということのようだ。長塚は言う、若田が持つ仏像は円空仏、状態次第では観光の目玉になる、と。
 しかし若田は、仏像の公開を頑なに拒む。もともと仏像は、若田が住んでいる家の家主が置いていったもので、若田に所有権はない。それを気にしているのかと問う甦り課に、若田は首を横に振った。
 この仏像は天からの預かり物。あだやおろそかには出来ない、というのである。

 仏像を見たい長塚と、見せたくない若田。両者の綱引きが膠着したある日、若田は甦り課に変わった頼み事をする。
 いまは新築の離れに安置されている仏像を、もともとあった場所に戻したい。そのためには所有者の日記が手がかりになりそうだが、なにぶん量が多く、一人では調べきれない。調べ物を手伝ってくれないかというのである。
 課長が安請け合いしてしまったため、これはさすがに市職員の仕事ではないだろうと思いつつ、垂水と観山は日記の解読に出かける。

 しかしその最中、怪事が起きた。
 たしかにさっきまでスムーズに開け閉めできていたはずの仏間のドアが、いきなり、びくともしなくなったのだ。
 鍵さえついていないドアなのに、押しても引いても開かない。閉じ込められた垂水はパニックを堪えつつ、必死に、なぜドアが開かないのか、どうすれば開けられるのかを考える……。


 少し変わった密室ミステリ、〈甦り課〉の掉尾を飾る一篇です。

タグ:〈甦り課〉
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇