掲載誌:「オール讀物」 発売日:2020年6月22日 |
群馬県杉平町杉平警察署に遭難の一報が入ったのは、二月四日土曜日の午後十時三十分のことだった。通報者は鏃岳スキー場でロッジ「やじり荘」を経営する芥見正司で、一一〇番ではなく杉平警察署に直接電話をかけ、夕食までに戻るはずの客が戻らないと訴えた。十時五十六分にロッジに警官が到着し、事情聴取をしたところ、埼玉県上庄市から来た五人連れの客のうち、四人が戻っていないことが確かめられた。 |
「オール讀物」に寄稿した短編です。
群馬県のスキー場で遭難事故が発生し、速やかに救助隊が組織された。
遭難した四人のうち二人は、崖下の谷筋に落下しているのが見つかった。一人はすぐに救急搬送されたが、意識不明の重体である。そしてもう一人は、崖の下に残された。他殺体だったからだ。
厳冬期、深夜の山中に、第三者がいたというのは考えにくい。犯人は救急搬送された遭難者で間違いない。
だが、遭難者が犯人だと考えると、一つどうしても解けない謎が残る。……現場に凶器が残されていないのだ。
遭難者の意識回復を待って事情聴取すれば、わかるかもしれない。だが意識はいつ戻るかわからず、意識が戻った遭難者が素直に自白するとは限らない。
県警捜査一課の葛警部補は部下に命じ、あらゆる情報を集める。
果たして「何が」被害者の命を奪ったのか。
指揮官に、一人で考える時間などほんの僅かしかない。そして葛は、そのわずかな時間に沈思する。
ハウダニット!
せっかくですから、葛警部補に先んじて「凶器」の正体を当てられるか、試していただければ幸いです。
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