2020年12月11日

「桑港クッキーの謎」


掲載誌:「ミステリーズ!」(東京創元社)
発売日:2020年12月21日


わたし、誰にでも公平でありたいと思ったことは、一度もない。



 船戸高校出身の芸術家縞大我が、サンフランシスコ美術展で特別賞を受賞。全国紙でも報道され、テレビでも取り上げられる騒ぎとなり、市はにわかに活気づく。そんな中、小鳩常悟朗は新聞部の堂島健吾から頼みごとをされる。いわく、
「小佐内を紹介してくれないか?」

 新聞部員の健吾は、縞大我の学生時代の活動を調べるうち、縞が残した絵を見つけたのだ。だがそれはロシアの画家の絵にそっくりだった。練習のために模写したのかと思われたが、どうやらこの絵は県展に出展されていたらしい。
 この絵は剽窃なのか? 健吾は卒業生の成功を祝うつもりで、彼の旧悪を暴いてしまったのか?
 剽窃ではないと言える理由が、何かひとつでも見つからないか。健吾は藁にも縋る気持ちで、かつて絵にまつわる謎を解いた(ことになっている)小佐内を頼ろうとしている。

 相談を受けた小佐内は言う。
「いやです」
 まあ、そうだよね、と小鳩は思う。小市民たらんとする小佐内ゆきが、どうして鑑定士のまねごとをしなければならないのか。だけどそこはそれ、人情というものがあるじゃないか!
 ふたりは紆余曲折の末、絵の正体に迫っていく。
 謎のカギを握るのは――サンフランシスコ生まれのにくいやつ、フォーチュンクッキー。


 調査と捜査の面白さを描ければと思った短編です。
 お楽しみいただければ幸いです。

タグ:〈小市民〉
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇