2020年10月06日

「落日孤影」


掲載誌:「カドブン」
発売日:2020年10月6日


「菩提を弔っておりました」
「何者の菩提を」
「此度の戦で果てた者どもの」
「何十何百とおろう」
「はい」



 荒木摂津守村重がいのちを賭けた謀叛は、十二月以降ろくに鑓も交えないまま、静かに終わろうとしていた。有岡城の戦いの敗北は軍事力の敗北であった以上に、政治力の敗退であった。そして城内では、少しずつ、「村重以後」に備える動きが始まる。
 村重は、人心の離反を扇動する「誰か」を一太刀に切り捨てればすべては元通りにうまくいくと信じている。村重の政治的ショーを妨げた一発の銃弾、それがどこから放たれたかさえつきとめれば、何もかも元通りになるのだと……。
 夏が終わる。
 荒木村重と黒田官兵衛の籠城が、終わろうとしていた。

 四章にわたって書いてきた有岡城の物語、その秋の章をお送りします。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇