2007年05月22日

「身内に不幸がありまして」


「小説新潮」(新潮社)2007年6月号収録
発売日:2007年5月22日 定価:780円



「吹子! どこまでも仮面の厚いやつ。お前はそのまま一生暮らすのか」
 お嬢さまは血のついた刀を下げたまま、微笑まれました。
「だってわたしは、丹山吹子ですもの。名無しのお兄様」



 雑誌「小説新潮」の2007年6月号に掲載された短編です。

 素封家の丹山家にもらわれた孤児、村里夕日。夕日は、丹山家の跡取り、丹山吹子の身のまわりの世話を命じられます。
 夕日と吹子。二人は立場の違いを抱えながらも共に成長し、吹子は夕日に、ときおり秘密の用を言いつけることもありました。夕日は敬愛する吹子の命ならば、喜んで従ったのです。
 時は夢のように過ぎて、吹子は大学に上がります。初めて家を離れ外で暮らす吹子を、夕日は胸がつぶれるほど案じます。しかし吹子は読書サークル『バベルの会』に入り、思ったよりも大学生活を謳歌しているようでした。
 そして、吹子大学一年の夏。吹子が帰省していたタイミングで、丹山家を悲劇が襲います。不行跡ゆえに勘当になっていた吹子の兄、宗太が、猟銃を抱えて丹山家を襲ったのです。宗太は吹子と夕日の前に姿を現しますが、二人は力をあわせ、宗太を追い払います。
 その日、丹山家当主はこう命じました。「宗太は死んだと思え」。
 しかしその翌年。さらにその翌年も。宗太が丹山家を襲ったその日に、丹山家ゆかりの人物が、何者かに殺害されていきます。
 夕日は戦慄します。丹山吹子の身に、まさか危険が及ぶのではなかろうか、と。
 そして四度目の、「その日」がやって来ました……。

 フィニッシング・ストロークものです。
 なんと、挿絵が藤田新策氏です。すごい。
 そして、私の主観ですが、これが合っているんです。藤田氏と私、両方の作風をご存知の方は、きっと首を傾げておられるでしょうね。


*『儚い羊たちの祝宴』に収録済


posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇