2007年12月22日

「北の館の罪人」


「小説新潮」(新潮社)2008年1月号収録
発売日:2007年12月22日 定価:780円



 殺人者の手は赤い。しかし彼らは手袋をしている。



 雑誌「小説新潮」の2008年1月号に掲載された短編です。

 母ひとり子ひとり、貧しい暮らしをしていた内名あまり。その母が、世を去るときに言い残しました。「六綱の家に行きなさい。わたしは、あのひとからもっと、受け取るものがあった」。あまりはその言葉通り、六綱家の館を訪れます。
 現当主の六綱光次はあまりを受け入れ、そして彼女を、別館づきの小間使いとします。別館、または「北の館」に、住人はただ一人。痩せて不健康そうな男、六綱早太郎です。
 小間使いとして、早太郎の世話を焼き、北の館を掃除するあまり。館から出られない早太郎に頼まれ、あまりは、用途のわからない買い物を繰り返します。あるときは卵を、あるときは凧糸を、あまりは買ってきます。その日々の中で彼女は、早太郎がなぜ北の館に軟禁されているのか、そもそも北の館とは何なのかを知ることになります。……そこは、六綱家の歪みを閉じ込める場所。豪奢なる座敷牢だったのです。
 やがて、早太郎は体調を崩します。医者さえ呼んでもらえず、足元も覚束ない彼は、最期に、これまでの買い物の意味をあまりに打ち明けます。
 そこには、北の館からついに出ることがなかった早太郎の、ある思いが込められていました。

 フィニッシング・ストロークものです。
 が、「最後の一行」ではありません。もうちょっと長いです。「最後の一頁」です。
 媒体が「小説新潮」、挿絵が藤田新策氏。ということで、「身内に不幸がありまして」とは、ゆるやかなシリーズになっています。


*『儚い羊たちの祝宴』に収録済


posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇