2008年04月10日

「玉野五十鈴の誉れ」


「Story Seller」(新潮社)収録
発売日:2008年4月10日 定価:780円



 わたしの弱さは結局生まれつきのものだったのだと、いまになって思う。
 最後の時まで、わたしは抗うということをしなかった。何もしないのが正しいのだ、従うのがいちばん良いのだと、わたしは自分の前に、百の理由を並べ立てた。




 雑誌「Story seller」に掲載された短編です。

 駿河灘を望む土地、高大寺。ここに小栗という家がありました。
 高大寺でも名うての分限者、小栗家。しかし最近は家運に衰えが見られ、一家の期待は、跡継ぎの小栗純香の一身に寄せられていました。
 純香の十五歳の誕生日。「人を使うことを覚えた方がいい」という理由で、一人の使用人が純香の専属になります。小栗家の思惑に反して、彼女、玉野五十鈴は、純香にとって初めて心を許せる相手になりました。
 それまで古典漢籍ばかりを読んできた純香。しかし五十鈴は小栗家の目を盗んで、純香にいろいろな小説を教えます。これまで知らなかった喜びを知った純香は、小栗家にささやかな反抗を試みます。大学に行くためと口実を作り、高大寺を脱け出すことに成功したのです。
 掴み取った自由。五十鈴と過ごす日々。大学に存在した〈バベルの会〉での交友。純香には全てが新鮮で、素晴らしいものに思われました。
 ……しかしそれも、長くは続きません。ある日、高大寺から一通の電報が届きます。

〈バベルの会〉シリーズの四作目。とりあえずはこれで、シリーズ終了のつもりです。


*『儚い羊たちの祝宴』に収録済


posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇