こんにちは。米澤です。
「おい、湯島の天神様で梅が咲く頃じゃぁねえか」
「おっ、たまにゃあいいことに気がつくねえ。梅は咲いたか桜はまだか、おいらどっちかってぇと、梅の方が好きでねえ。あの枝振りがたまんねえ」
「一つ花見と洒落込もうじゃねえか。握り飯なんぞこさえてね、タネはもちろん梅干しとなぞらえて。梅餅に梅昆布茶、ちょいと梅酒なんてぇのも悪かねえ」
「どうもあれだね、色気より食い気だね。こう、花を愛でる心ってえもんはないのかね。まあいいや、そうと決まれば仕度をしようじゃねえか」
「よしきた。あれとそれとこれを詰め込んで」
「さあ行くとしようか」
と意気込んで外に出た米さんでしたが、ひゅうっと吹く風にたまらず身を震わせます。
「ぶるるっ、おいっ、なんだいこりゃあ。えらく寒いじゃねえか」
「おかしいなあ。ついこないだぁ、じっとりと汗かくような陽気だったてえのに」
「季節の変わり目ったって、こりゃひどい。ちょっと駄目だね、用意がいるよ」
いったん戻って仕度をします。
「羽織るものと首に巻くもの。まあ、これだけありゃあ心配あるめえ」
「手袋はどうだ。花見に行って風邪を貰ってきたってなあ、どうもいただけねえよ」
「そりゃそうだ。よし、手袋もつけていこう。なあに、邪魔になったら鞄に放り込めば済む話」
「しかしこれで出遅れたな。おい、昼飯をどうする」
「おめえは食うことばかりかい。時間がなきゃあ、蕎麦でも食やあいいじゃねえか。さ、行った行った」
今度こそと意気込んで、寒風何するものぞと意気を揚げ、駅へと向かう頬にぽつり、ぽつり。
「ちべてっ。おいおい、冗談もたいがいにしやがれ。まさかまさかだ」
「おっとおいらにも。こりゃまさかじゃ済まねえな。降って来やがった」
「こりゃあ綾がついたってもんだ。雪見とはあまり利口の沙汰でなし、ってえが、雨の中で梅を見るってのもどうにも馬鹿な話だぜ。へっ、やめだやめだ、つまらねえ。引っ返そうぜ」
「だいたいてめえがいけねえや、空模様も見ずに何が湯島の天神様だ。拝むンなら、まずはてるてる坊主にしねえ」
(要約)
花見に行くつもりが寒くて雨が降ってきたので帰ってきました。