2009年11月22日

悪い夢です

 こんにちは。米澤です。

 最近どうも悪い夢ばかり見て、眠りが浅くて困っています。
 他人の夢の話ほどつまらないものはないといいますが、世にも恐ろしい悪夢をおすそわけしたくて書いてみます。

「こんな夢を見た」で書き始めたりはしませんよ。



1)
 仮面を被った殺人鬼が見目麗しい美女をつけ狙うという夢でした。

 殺人鬼の獲物はなにか鋭利な刃物で、たぶん鋏のようなものでした。元ネタがいくつか思い浮かびますね。
 そして殺人鬼はこの世のものではない力を備えていました。

 しばらく夢を見ていてわかったのですが、殺人鬼はどうも、「中に誰もおらず、外から中が見えない空間であれば、そこに犠牲者をテレポートさせられる」ようでした。
 たとえば仮面の殺人鬼が部屋のドアを閉めると、閉鎖空間になったその部屋に、逃げたはずのヒロインが忽然と現れるのです。

 面白いのが、閉ざされた部屋にヒロインが飛ばされてきても、殺人鬼はその部屋の「外」にいるということです。
 犠牲者をテレポートさせる部屋は無人でなくてはならないので、殺人者自身がいる部屋に呼んでくることはできない。常に無人の部屋に呼び出されるヒロインは、どこから殺人鬼が入ってくるか怯えることになるのです。

 ヒロインは自分がテレポートさせられないよう、扉や窓などを片っ端から壊していきます。
 そうして閉鎖空間を作られないようにしているのですが、家のどこかでサッとカーテンが閉まる音がしたかと思うと、カーテンによって区切られた空間にテレポートさせられてしまう。
「外から見えず、中に誰もいない」という条件を満たせば、そこが別に「部屋」でなくても犠牲者を招くことができるからです。

 ようやく逃げ出しても、ヒロインはまたしてもテレポートさせられてしまう。無人の空間で、殺人鬼はどこから入ってくるのかわからない。
 恐怖は無限に続くのです!

 どうやら洋画ホラーらしく、視界の下の方に字幕がついていました。

 問題なのはヒロインの造形です。
 ホラー映画なんですから「きゃー」と叫んで欲しいものですが……。

 夢の中で彼女は、背中にダブルバレルの猟銃、手に22LR口径のセミオートと象牙で飾られたリボルバーを所持。
 そして、殺人鬼の姿を見ると悲鳴も上げず、躊躇いもせずに銃弾を叩き込んでいきました。


 夢を見ていた私は、「これ怖くないよ。ホラーなのにぜんぜん怖くないよ。設定は凝ってるのに返り討ちにしていいのか? というかまだ誰も死んでないんじゃないか? こんな怖くないホラーで大丈夫なのか? ちゃんと客を呼べるのか?」と不安で不安で、観客動員数と損益分岐点のことを考えると恐ろしくてたまらず……。
 それで目が覚めました。

 ひどい悪夢でした。



2)
 銚子かどこか、漁港に来ているようでした。
 せっかく港に来ているのだから新鮮な魚を食べようと、タクシーをつかまえました。
「どこか魚の美味しい店に連れて行って下さい」
 タクシーの運転手はきさくな人で、「いい店があるよ」と車を出しました。

 車内では他愛のない話で盛り上がりました。
 何でもこれから連れて行ってくれるオススメの店は、運転手さんの息子も大のお気に入りだそうです。
 その息子さんはまだ幼児で、言葉を覚えたばかりなのですが、
「どうも、ませたやつでね」
 と、運転手さんは嬉しそうに話してくれました。
「ほとんど喋れないのに、X-JAPANを歌うんだ」
 それは確かにませていて、凄い息子さんだな、と感心しました。

 ところがどうもおかしい。
 車はどれだけ走ってもお店に着かず、それどころか道沿いには建物の数さえ少なくなって、だんだん山の中に入っていくようなのです。
 途中何件か料理屋があったので、そのたびに「ここかな」と思うのですが、運転手さんはどんどん先に車を走らせるのです。

 とうとう、漁港から遠く離れて長い長いトンネルに入ってしまいました。
「ねえ運転手さん。腹が減ったんですが、そのお店はまだですか」
「うーん、まだもうちょっとかかるねえ。大丈夫、いい店だから」
 そう言われてしばらくは黙っていたのですが……。

 トンネルを出てもまだ着かない。どんどんひとけのない道に入っていきます。
 店がどうこうというより、いったいどこに連れて行かれるのかと不安になって、私はとうとう訊きました。
「運転手さん、そのお店にはあとどれぐらいで着くんですか」
「そうだね、あと二時間ぐらいだね」
 そんなに! 漁港に来ていたはずなのに、どうしてそんなに遠くに行かなければならないのか。
「すみません、そのお店、いったいどこにあるんですか」
 運転手さんはそれまでと変わらない快活な声で、しかしこちらを振り返ることなく、こう言ったのです……。

「銀座ですよ」

 なんでだよ! この街で食わせろよ!
 そう身を乗り出した私の目に映ったのは、既に五桁を超えた料金メーター。
 恐ろしさのあまり総身水を浴びたようになって……。
 それで目が覚めました。

 ひどい悪夢でした。



 いや本当に最近悪夢ばっかりで、困っています。
 夢見が良くなる食べ物とかありませんでしたっけ。
posted by 米澤穂信 at 07:00| 近況報告