2011年05月04日

「怪盗Xからの挑戦状」


web掲載(現在は掲載終了)
公開日:2011年5月4日



 美学。
 美学であれば仕方がない。私は力強く頷く。
「気持ちはわかる。大いにわかるぞ、怪盗X!」
「あなたならわかって下さると思っていました、探偵X!」
 そして我々はテーブル越しに、固い握手を交わした。所属する陣営は違えども、我々は美学を追究する同志である。それが汚された時、我々は何としてでもその汚点を拭い去らねばならない。そうでなければ探偵は探偵たり得ず、怪盗は怪盗たり得ないのだ。
 だが助手は、微かに眉をひそめていた。「あ、この人も残念な感じの人だ」と呟くのが聞こえる。




 人を傷つけないことを美学とする怪盗X。ポール・ゴーギャンの名画「オアラマオア」をはじめ、さまざまな財物を盗みだしてきた彼は、世にも稀なる絶品の血赤珊瑚「田端の女王」を狙っていました。
 狙った獲物が長野県のホテル・天弓館に隠されているという情報を掴んだ彼は、変装して下見に向かいます。
 ……そしてその晩、雪と事故に閉ざされたホテルで、一人の男が殺害されます。

 偽の身元を用意していなかったため、怪盗Xは警察が駆けつける前に天弓館を脱出。しかしそのせいで、彼は事もあろうに殺人事件の容疑者になってしまいます。
 自らの美学を守るためには、真犯人を見つけ出さなくてはなりません。怪盗Xは現場の状況を録画したデータを携え、ある人物を訪ねます。

 その人物こそ探偵X。違いのわかる男。
 天弓館での殺人事件は、探偵Xに突きつけられた挑戦状も同然となりました。そしてこの挑戦状は、同時に、読者・視聴者諸賢にも向けられているのです!


 テレビドラマ「探偵Xからの挑戦状!」(第3シーズン)用に書き下ろした短篇です。公開時の情報についてはこちらに記してあります。
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇