「野性時代」2012年8月号(角川書店)収録 発売日:2012年7月12日 雑誌定価:680円 |
知りたければ鏡を見てきたら? |
雑誌「野性時代」に寄稿した短篇です。
伊原摩耶花は、買い物に出かけた日曜日、思いがけず中学時代のクラスメートに会う。
近況を交換するうち、折木奉太郎と同じ部活に入っていることを口にすると、相手は顔をしかめた。
「そっか……。折木がいるんだ。サイアクじゃん」
そして伊原は思い出す。自分たちが中学生だった頃、折木は確かに、サイアクと言われるだけのことをした。
中学生活最後の卒業制作で、折木は手を抜いて作品を台無しにしたのだ。デザインを担当した女子生徒は、あからさまな手抜きを前にして泣き崩れた。
あのとき、クラスメートは折木を非難した。思い出を汚した、と。伊原自身も、そっと目を逸らしたことがあった。
だけど卒業から一年と少しの間、折木が古典部でしてきたことを思い返すと、ふと疑問が湧く。ひょっとしたら、あれは単に「サイアク」の一言で片づけられる話ではなかったのかもしれない……。
中学最後の冬、本当は何があったのだろう。伊原摩耶花は、元クラスメートを訪ね始める。
あの一件にもしも何か事情があったのなら、自分は折木に言わなければいけないことがある、と思いながら。
〈古典部〉シリーズの短編です。
伊原の一人称は、『クドリャフカの順番』以来になります。
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