こんにちは。米沢穂積です。
休憩します。
新宿駅の地下通路を歩きました。
壁に禁止事項のプレートが掲げてあったので、立ち止まって読みました。
ここでは
寝ること、
食べること、
飲むこと、
煙草を吸うこと
唾を吐くこと、
立ち止まることをしてはいけない
甲高い笛の音が響いたかと思うと、私はたちまち警備員に囲まれました。
彼らは(ここでは立ち止まってはいけないので)私のまわりをぐるぐると廻りながら、厳しく糾弾してきました。
「なぜ立ち止まったのだ。ここで立ち止まってはならんのだ」
「このプレートを読もうと思ったのです」
「そんなことのために立ち止まる者がいるはずはない。これまでただのひとりも、プレートを読むために立ち止まったりはしなかった。さあ、何が目的だ。なぜお前は立ち止まったのだ」
「してはならないことを知ろうと思ったのです」
「それは嘘だ。本当のことを言え。素直に言えば許してやる」
「文字を読みたかったのです」
「嘘を言うな。嘘ばかりだ。なぜ立ち止まったのか、正直に言うんだ」
「私は書店員なんです」
「本当に書店員なら仕方がないが、どうせお前の言うことは嘘だ。本当のことを言え。本当のことを言え」
彼らは廻る足を片時も止めず、私を責め立てました。
結局彼らを納得させることは出来ませんでしたが、二度と決して絶対に立ち止まらないと誓うことで、ようやく解放されました。
私が本当に立ち止まらないか疑っているのか、彼らは距離を置いて私についてきました。もし立ち止まったら次はどうなるかわからないので、私は早足で歩き続けました。
まだ、ついてきます。
朝ごはんを食べに行ったんですよ。