2009年03月13日

見つかりました

 こんにちは。米澤です。

 ふと『奇想の系譜』(辻惟雄)を読みたくなり本棚を探していたら、いつの間にかずいぶん整理が進みました。とりあえずのつもりで本を放り込んでいたクリアボックスのキャスターがへし折れていました。重量物には耐えられなかったようです。
 目当ての本を探すうちに、とある別の本が見つかりました。この本には私の座右の銘(ということにしてある)言葉が書かれています。伝聞を重ねるうちに正確な表現が失われている気がするので、ちょっと書き出してみます。
「性格を持たないとき、人はたしかに方法を身につけなければならない」
 です。
 意味は知りません。
 さて、では本棚の整理……じゃなかった、仕事を再開します。ちなみに『奇想の系譜』は見つかりませんでした。どうやらこっちじゃなくあっちの棚に入っているようです。
posted by 米澤穂信 at 17:34| 近況報告

2009年03月09日

こんな世の中は嫌いです

 こんにちは。米澤です。

 気がついたら世の中が変わっていました。
 こんな世の中は嫌いです。
 そんなまさか、三月だなんて。

 私の二月はどうしたでしょうね?
 ええ、冬、A社とB社の締切がある中で
 ○○を落としたあの二月です
 二月は好きな月でしたよ
 だけど、三日ほど少ないもんだから
 あのとき向こうから若い編集者が来ましたっけね
 紺の脚絆に手っ甲をした

 これはきっとあれです。誰かが切り札を切ったに違いありません。「このカードが場に出たとき、全てのプレイヤーは二月フェイズをスキップする」みたいな効果の。けしからんですね。禁止カードに指定すべきです。

 とにかくこんな世の中は嫌いです。三月なんて、深き紅の淵にでも落ちてしまえばいい。
 ……ああ、でもそうすると四月になってしまうのか。
 待って三月、出来心だったの。二月にほんのちょっと未練があっただけなのよ。あなたが嫌いなわけじゃないの、言いすぎたわ。だから行かないで!

 歳月人を待たず。
 仕事します。
posted by 米澤穂信 at 11:01| 近況報告

2009年02月24日

行きませんでした

 こんにちは。米澤です。

「おい、湯島の天神様で梅が咲く頃じゃぁねえか」
「おっ、たまにゃあいいことに気がつくねえ。梅は咲いたか桜はまだか、おいらどっちかってぇと、梅の方が好きでねえ。あの枝振りがたまんねえ」
「一つ花見と洒落込もうじゃねえか。握り飯なんぞこさえてね、タネはもちろん梅干しとなぞらえて。梅餅に梅昆布茶、ちょいと梅酒なんてぇのも悪かねえ」
「どうもあれだね、色気より食い気だね。こう、花を愛でる心ってえもんはないのかね。まあいいや、そうと決まれば仕度をしようじゃねえか」
「よしきた。あれとそれとこれを詰め込んで」
「さあ行くとしようか」
 と意気込んで外に出た米さんでしたが、ひゅうっと吹く風にたまらず身を震わせます。
「ぶるるっ、おいっ、なんだいこりゃあ。えらく寒いじゃねえか」
「おかしいなあ。ついこないだぁ、じっとりと汗かくような陽気だったてえのに」
「季節の変わり目ったって、こりゃひどい。ちょっと駄目だね、用意がいるよ」
 いったん戻って仕度をします。
「羽織るものと首に巻くもの。まあ、これだけありゃあ心配あるめえ」
「手袋はどうだ。花見に行って風邪を貰ってきたってなあ、どうもいただけねえよ」
「そりゃそうだ。よし、手袋もつけていこう。なあに、邪魔になったら鞄に放り込めば済む話」
「しかしこれで出遅れたな。おい、昼飯をどうする」
「おめえは食うことばかりかい。時間がなきゃあ、蕎麦でも食やあいいじゃねえか。さ、行った行った」
 今度こそと意気込んで、寒風何するものぞと意気を揚げ、駅へと向かう頬にぽつり、ぽつり。
「ちべてっ。おいおい、冗談もたいがいにしやがれ。まさかまさかだ」
「おっとおいらにも。こりゃまさかじゃ済まねえな。降って来やがった」
「こりゃあ綾がついたってもんだ。雪見とはあまり利口の沙汰でなし、ってえが、雨の中で梅を見るってのもどうにも馬鹿な話だぜ。へっ、やめだやめだ、つまらねえ。引っ返そうぜ」
「だいたいてめえがいけねえや、空模様も見ずに何が湯島の天神様だ。拝むンなら、まずはてるてる坊主にしねえ」

(要約)
 花見に行くつもりが寒くて雨が降ってきたので帰ってきました。
posted by 米澤穂信 at 15:30| 近況報告

2009年02月16日

メールフォーム閉鎖します

 こんにちは。米澤です。

 いや、blog形式恐るべしと申しましょうか、メールフォームへのリンクを張った途端にアダルト業者からのSPAMメールが殺到しました。スクリプトなんでしょうが、しかし彼らの仕事熱心にはある種の畏怖を覚えます。私も少しは見習った方が良いでしょうか。

 ともかく、メーラーがまともに機能しなくなったため、メールフォームを閉鎖し、受付用メールアドレスを廃棄します。思えば、かつて掲示板を閉鎖したのも同じ理由でした。
 皆様からのご意見、ご感想を頂けなくなるのは寂しい気がしますが、やむを得ません。

 長らくのご愛用、ありがとうございました。
posted by 米澤穂信 at 22:00| 近況報告

2009年02月12日

備えるべきです

 こんにちは。米澤です。

 今朝方、湯を沸かす手間も惜しかったので、紙パックのカフェオレでカフェイン補給することにしました。余裕があれば喫茶店で「マスター、今日はちょっと深煎りの豆で頼むよ」などとほざく米澤さんが紙パックとは情けないものです。冗談です。喫茶店でそんなこと言いませんし、紙パックのカフェオレだって異存はありません。私が喫茶店で訊くことが多いのは「これは香りづけにお酒を使っていますか」です。

 ああ、そんなことを言いたいわけではなかったのです。すみません、恐るべき真実に直面して混乱してしまいました。話を戻しましょう。いいですか、紙パックのカフェオレを飲もうと指をかけた途端、カフェオレが飛び散ったのです。それはもう広範囲に。仕事道具たるPCにも、もちろん。パックの内圧が高くなっていて、私が指をかけた負荷で限界を超えて、一気に吹き出したような感じでした。
 確かにこういうことは、なくもない。炭酸飲料を振ってスプレーのごとく噴射した経験は皆さんもおありでしょう。しかしモノはカフェオレです。あるいはカフェオレが古くなっていて腐敗し、ガスが発生して内圧が上がっていたとお考えになるかもしれません。しかしそうではない。これは今日の未明、近くのコンビニで買ってきたものなのです。飲んでも大丈夫でした。

 炭酸ガスでも腐敗ガスでもない。それなのに紙パックの中身に圧力がかかっていた。これはどういうことかといいますと、答えは明々白々です。
 皆さんは登山をなさいますでしょうか。私は少しだけ、ピクニック程度に上ったことがあります。山では、普段平地にお住まいの皆様がよく試すことがあります。自宅からポテトチップスを持って来るのです。平地にあわせて密閉されたポテトチップの袋は、山に登るとパンパンに膨らみます。平地よりも山地の方が大気圧が低いため、中の空気が膨らんだからです(正確な表現ではありません)。同じことはカフェオレでも起こります。
 平地で買ったカフェオレを山地に持って行けば、同じように中身が飛び散るでしょう。

 しかし私がいま現在いる場所は、海抜0メートルに近いのです。このカフェオレがどこで封をされたのであれ、その場所よりもここの方が大気圧が小さいなどということはありえない。それなのに……。そう考えたとき、私は真実に気づいたのです。
 平地で密閉されたポテトチップスを山地に持って行くと、膨らむ。
 では、平地にあったカフェオレが膨らんでいた場合、それはどこで作られたものか?
 皆さんもお気づきのことでしょう。そうです。海中です。
 高い水圧がかかった場所でカフェオレを作り、紙パックに注いで密閉した。それを水揚げし、流通に乗せて平地で売った。
 しかし平地の大気圧は、カフェオレの封を閉じた海中の水圧よりも低かった。
 であればこそわたしのカフェオレは吹き出して、PCに飛び散ることになったのです。

 つまり、海底人は存在するのです!

 彼らは海中に工場を建設し、虎視眈々と地上を狙っているに違いありません。早期に脅威に気づいて良かった。彼らの海中工場は既に稼働しています。このカフェオレが何よりの証拠です。我々は備えるべきなのです。海底人による地上侵略に!
 いまのところ、彼ら海底人の存在は公にはされていません。何かの協定で存在が伏せられているのか……。それとも、世界で初めて、私が気づいたのか?
 もし後者であったとすれば。いや、前者だったとしても。
 このような恐るべき真実をたちどころに看破した私を、「彼ら」は黙って見過ごしてくれるでしょうか。あるいは既に、彼らの安寧の地である暗き海中を離れ、一つの真実を葬り去らんと胎動しているやも
 ああ、窓に! 窓に!



 ところで、彼らがわざわざ海の中で生産したカフェオレは1リットル180円でした。
 あんがいフレンドリーな連中かもしれません。

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posted by 米澤穂信 at 10:07| 近況報告

2009年01月30日

ひっかけました

 こんにちは。米澤です。

 先日、人に会った折、こんな話をしました。


「この間、湯上がりにちょっとドジを踏みまして。何しろ風呂場では眼鏡をかけられないので、足元が見えてなかったんですね。部屋を歩いていたら、パソコンのケーブルを足の指にひっかけたんです。
 ああ、転んだりはしませんでしたよ。つんのめっただけで。ただ、ツメがね……。
 ベキッて音がしたんで、嫌な予感はあったんですよ。足元を見てみたら案の定というか、ツメが折れていたんです。
 思いっきり引っ張りましたからね、根本からぽっきりいってました。折れる時はきれいに折れるもんですね。
 それでまだとれたままなんですが、いつもはツメなんて気にしなかったのに、ないと何かと不便なんですよ。何だか頼りなくって」

 会話の相手をふと見ると、この世の終わりのような顔をしていました。
「そういうイタイ話はやめてください」と言われたので、やめました。


 家に帰ってきて気づきました。
 ああ、爪か。

言うまでもありませんが
posted by 米澤穂信 at 21:10| 近況報告

2009年01月26日

まいりました

 こんにちは。米澤です。

 年明けから割とろくでもないことが続き、体力はともかく精神力をごっそり消耗してしまいました。このろくでもない連鎖はお狐さまのバチにちげぇねえと思い立ち、遅まきながら年明けのご挨拶を申し上げるべく、東伏見稲荷に参ってきました。
 本当なら京都は南の伏見稲荷に参れれば申し分ないのでしょうが、なにぶん遠いので。

 初詣の時期はとうに過ぎ、境内はひとけもなく静まりかえっていました。とりあえずよろしゅうと参拝した後、毎年恒例の御神籤をひいてきました。
 こちらに越してきてから稲荷に参るなら東伏見と決めているので、割と何度か来ているんですが、それにしてもここは御神籤の判定が厳しい。大吉中吉なんて望むべくもなく、吉が出ればまだ良い方、凶の籤がふつうに出てくるという、なんともスリリングなお試しスポットとなっています。今年はすでに凶っぽいことが立て続けですので、ここでいい籤を引いて転換のきっかけにしたいと願い、がんらがんらと箱を振りました。
 さあ、吉凶やいかに!?

 その結果がこれです。ヘイ!

hey.jpg

 四十一番 平。
 ヘイ! と言われても……。で、吉なんですか、凶なんですか。

 ちなみに、
「縁談:おもしろからず」
「病気:よろしからず」
「あきなひ:おもはしからず」
「たびだち:出さきにてさわりあり」
「失せもの:出がたし」
 などなど、良いことは何一つ書いてありませんでした。転居や訴訟、相場などについても全滅。御神籤はこれほど「ダメ」の表現が多彩なのかと感動さえしましたが、あいにくデジタルカメラを持ってきていなかったので、充分な取材はできませんでした。いつぞやの凶の方がまだ救いが書かれていた気さえします。
 常連客に対してもこのグラディウス3並みの判定の厳しさは、さすがお狐さまと思わざるを得ません。媚びないところが素敵です。昨今の1ドット判定も少しは見習って頂きたいところです。もはやなにを言っているのかわかりません。ヘイ!

 東伏見稲荷の御神籤にはいい籤など入っていないんだ、誰が引いてもろくでもないことばかり書いてあるんだと自分を慰めながら結びどころに籤を結んでいると、隣の籤の中身が透けて見えました。大吉でした。

 おもはしからぬ年の初めにお狐さまのお墨付きまでいただいてしまいましたが、まあ、読者の皆様におかれましては来月の新刊よろしくお願いいたします。
posted by 米澤穂信 at 12:06| 近況報告

2009年01月18日

残念です

 こんにちは。米澤です。
 今日はちょっと残念なことがあったので聞いて下さい。

 年が改まり、平成21年分の課税期間が始まりました。平成20年分の領収証や支払調書はそれぞれノートに貼り付けてありますが、それらのノートを新調しなくてはなりません。近くのスーパーマーケットには学習帳やキャンパスノートは置いてありますが、私が望むようなA4サイズのリングノートは見あたらなかったので、吉祥寺まで出かけてきました。

 目当てのノートの他、溢れつつある紙類を適宜整理するためのバインダーを幾つか買い込み(こういうものは意外に高いですね)、私は店を出ました。
 夕食を生パスタの店で食べようと算段していたのですが、思ったよりも遅くなってしまい、店は閉まっていました。そこでどこか適当な店で適当なものを食べ、その後、喫茶店に向かいました。
 読みかけの本がちょうどクライマックスだったので、読んでしまおうと思ったのです。

 喫茶店は、アール・ヌーボーの雰囲気に統一されたなかなかお洒落な店です。使われているランプがどこかドーム兄弟の作風を思わせるのですが、私にとってこの店がよいのはランプのためではなく、0時まで店が開いているからです。
 犯人はほぼ登場の時点でわかっていて(その作家の創作傾向を知っていれば、ほぼ確実とも言えました)、名探偵の失策はほとんど致命的で見ていられないほどのものでしたが、それでもその小説はたいへん面白く、ぐいぐいと読んでいきました。
 最後の対決が終わり、事件が解決しロマンスが実を結び、満足して店を出ました。時刻はちょうど閉店間際でした。

 店を出たところで、声をかけられました。
 このあたりには黒服の客引きが少なくないのです。一人で歩いていると、「キャバクラいかがすか?」と近寄ってきます。そういえば以前、ある人に「米澤さんはああいう店に行かないんですか」と訊かれて、バカにするなとばかり「常連ですよ」と答えたことがありました。「へえ、どんな感じなんですか」「そうですね、店に入るとまず『ああら米さん、ずいぶんとお見限りねえ』と……」「嘘だー!」という会話の流れだったんですが、どうして嘘とばれたのかまったく見当がつきません。ちゃんと泡坂作品を参考にしたのに。いや、泡坂作品はこんな感じじゃないか。では誰の小説でしょう。まあいいや、話を先に進めましょう。
 声をかけてきたのは黒服の客引きではなく、外国人のカップルでした。

 なんかペラペラと話しかけられましたが、英語を話せるかと尋ねられたことはわかりました。
 英語なんて高校で習ったきりで、大学ではナルニア国物語を訳すゼミに出ていたりしましたが、基本的に英会話を勉強したことはありません。私は答えました。
「じゃすたりとー。ばっらいむのっとぐっどあといんぐりしゅ、すぴーくすろーりーぷりーず」
 外国人カップルの男の方は私のぷあいんぐりっしゅをわかってくれたようでしたが、ちっともゆっくり話してくれませんでした。
 どうやら彼らは、バーで一杯やりたいと考えているようなのです。
「ゆーうぉんどりんきん?」
 手振りをつけて訊くと、どうやら間違いないようです。いい店がないか知りたいようでした。
 はたと困りました。零時をまわった吉祥寺で、外国人カップルが気楽に飲めるバー……。確かにすぐ近くに、いい店があるにはあるんですが。いちおう言ってみました。
「あいのうざぐっぷれいすとぅどりんく、ばっとおんりーじゃぱにーずさけ」


 さて問題です。

1)2センテンス目は「しかしそこには日本酒しか置いていません」と言いたかったと推測されます。「おんりー」と「じゃぱにーずさけ」の間に適切な言葉を補い、文を完成させなさい。

2)正確なスペリングを調べるのを面倒がっている米澤のために、英語に直しなさい。

3)「あなたがもし受験中なら、こんなところを見ているべきではない」を英語に直しなさい。

4)そもそも何か根本的に間違っていると考えた場合、その言葉を呑み込みなさい。
(各4点)


 外国人カップルは、そこでもいいと言っているようでした。
 しかしそこは、確かに料理も酒もいいのですが(ノドグロが素敵でした)、本当に純日本風なのです。それに少し値が張りますし、深夜までやっているとも思えない。お勧めは出来ません。
 脳裏に吉祥寺の地図を展開しました。心当たりはあと五ヶ所。

 そのうち一ヶ所は、やはり純和風なうえ席によっては正座を求められ、しかも遠いので却下です。
 別の一ヶ所は近いことは近いのですが、客層が若く彼らにはうるさすぎるかもしれない。それに基本的にエスニックの店なので、好みに合わない可能性が高い。
 次の一ヶ所はジャズバーですが、週末に店を開けていたかどうか自信がありません。
 その近くの一ヶ所は気楽ですが、バーではなくアルコールも出す深夜喫茶です。ついでに閉店は一時なので、あと一時間しかありません。
 最後の一ヶ所がたぶん最適ですが、吉祥寺というよりほとんど西荻窪の店で、歩くと遠いのです。

 困った私は、自分の背中側を指さしながら言いました。
「でぃすかふぇずますたーますとのう。あいあすくひむ」
 後から思ったのですが「ますと」は強すぎますね。適切な単語に置き換えなさい(3点)。
 そして店に戻って、尋ねます。
「ぜいうぉんと、あ、すいません、この人達がバーを知らないかと言っているんですが」
 しかし、店の人もいいバーは知りませんでした。「そこのうどん屋でしたら……」「そういうわけにもいかないでしょう……」と、歯切れの悪い会話を繰り広げました。
 私とカフェのマスターの会話が不調だと悟ったのでしょう。それに、ずいぶん時間もかかっていました。カップルは何事か話すと(「ありがとう、でももういいです」だったに違いありません)、手を振ってその場を去ってしまいました。


 帰り道、私はたいへん残念でなりませんでした。
 旅人に親切にすることは、文化人類学の観点から見ても世界的に共通の美徳です(その親切は、後腐れなく、そして出来るだけ早く旅人を追い出すためのもの……という考え方もありますが、まあそれはそれとして)。
 しかし私は彼らの役に立つことができませんでした。とても残念です。
 そしてもう一つ、どうしても残念なのが、どうしてあのときにハモニカ横町(吉祥寺駅前の飲み屋街。もちろんバーもあります)の存在を思い出さなかったということなのです。あそこなら、いくらでも店があったでしょうに。
 夕食を予定通り生パスタの店で食べていれば、思いついたに違いないのです。その店もまた、ハモニカ横町にあるのですから……。


 街の案内人としての我が身の未熟が、骨身に沁みました。
 彼らが良い夜を過ごせたことを祈りつつ、おとなしく納税用資料を作るとします。
posted by 米澤穂信 at 01:07| 近況報告

2009年01月15日

祝いました

 こんにちは。米澤です。

 生活の24時間化・365日化に伴って、正月というハレから日常ルーチンに戻るのが早くなったと感じているのは、たぶん私だけではないでしょう。自分自身も、そして周囲の方々もすでに通常どおりの仕事をしているのに、いまさら新年会と言われてもちょっとピンと来ません。ですがご馳走が出るらしいのでそこはそれ、のこのこと新年を祝う会に招かれて行きました。

 今回の主催はスクウェア・エニックス社。……すいません、私はいまのところあんまり御社に貢献していないと思うんですが……。コ、コミック版『春期限定いちごタルト事件(後)』は2月発売です! と宣伝してフォローになるものかどうか。
 ともあれ会場の新宿プリンスホテルへ。去年がパークハイアットでしたので、いろいろ波があることだなあと思いながらプリンスのフロントまで来ましたが、それらしい人影が見あたりません。出版社系の新年会(に限らず、パーティー)は、一目でそれとわかる人の群れが目印になるはずですが。
 はっと気づいて招待状を確認したところ、プリンスではなくヒルトンでした。

 軽やかにプリンスホテルを飛び出し、やむを得ずタクシーに乗り込むと、運転手さんが慰めてくれました。
「ああ、プリンスとヒルトンは、似ていますからねえ」
 そうですね。四文字のところなんかそっくりです。しかも両方とも「ン」の字まで入っています。これは間違えても当然ですよ! 私が悪いんじゃありませんね!
 ……下手な慰めはかえって人の心を傷つけます。

 まあ、そんな些細なトラブルはありましたが。
 実はこのスクウェア・エニックス社新年会、私にとってはたいへん気楽なパーティーです。
 何しろほら、周囲はほぼ全員漫画家さんですので、小説家の私は彼らと隣接業種ではあるものの直接の関係は薄い。仕事上の社交を気にすることなく、のんべんだらりと飲み食い出来るのです。
 というわけで、「すいません、私はいまのところあんまり御社に貢献していないと思うんですが」と思いながら、たらふくご馳走になって参りました。

 去年のゲストはアンガールズ。それを踏まえて今年は髭男爵と読んでいたんですが、さにあらず。ナイツが壇上に上がったかと思いきやそれも前座で、メインゲストはアントキノイノキでした。華やかなイベントを横目に、私はたらふくご馳走になっていました。二回言いました。
 ビンゴ大会の景品が、「スライム模様ブランケット」から「ブルーレイ搭載型プラズマテレビ」まで、あまりに価格帯に差があるのが愉快でした。どうせ当たりゃしないので、私はたらふく(以下略)


 あんまりたらふくだったので、ちょっといろいろ心配になり、明けて翌日の今日はなぜだかとても長距離ウォーキングをしたい気分です。
 ではちょっと歩いてきます。
 そう書き残したのがあの子の最期でした。
posted by 米澤穂信 at 00:28| 近況報告

2009年01月08日

上を見ます

 こんにちは。米澤です。
 あけましておめでとうございます。
 今年もどうぞ、よろしくお願いいたします。

 ほんの気まぐれからblog形式に移行した「汎夢殿」ですが、やることはこれまでとほとんど変わりません。ただ、「近況報告は0の付く日」という原則は、ちょっと改めようかと思っています。仕事が立て込むと更新できない日も続きますし、ネタがあるのに0の付く日を待つというのもおかしなもの。シェフのきまぐれ更新という形で進めていこうかと考えています。

 ところでblogには、画像を大量に用いてささやかな生活を記録するものというイメージがあります。
 そこで私も、「こんなもの買っちゃった☆ミ」日記を書いてみようと思います。


 私の部屋のメインコンセプトは「殺風景」です。
 部屋は執筆のためにあるのであって、安らぎのためにあるのではありません。外から帰ってきたとき、「ああ、我が家に帰ってきた」と思うのではなく、「ああ、職場に戻ってきた」と思うようでなくてはなりません。
 そこで、部屋に入るとまずカレンダーが見えるように配置されていますし、机からふと顔を上げるとスケジュール一覧が目に入るようになっています。

 そんな部屋なのに、ペン立てが欲しくてつい、こんなものを買ってしまいました。


005.JPG


 これは……。
 栗鼠じゃないでしょうし、小熊でしょうか。レッサーパンダの可能性も捨てきれませんが、しかしいずれにしても、ええい、あんがい可愛いではないですか。

 こんなことではお部屋のコンセプトが崩壊してしまいます。
 ペン立てとしての本分を果たさせて、事務用品という雰囲気を打ち出しましょう。


006.JPG


 けなげだ……。
 こ、こんなけなげでは困ります。この部屋には鉄と錆と汚れと諦念こそが似合うのです。配偶者を得て構えた新居じゃあるまいし、なごんでどうするんですか。

 というわけで、隣に並べてみました。


007.JPG


 もともと空を飛ぶ力の弱い鶏でありながら、上を見たままぶくぶく太り、もはや地面も満足に走り回れないのに、なおも上ばかりを見ている。
 そのすぐ近くには一心に重き荷を運ぶ小熊がいるというのに、鶏は目を下ろすこともなく、両者の視線は永遠に交わらない。

 うん、いい構図です。
 これなら我が部屋にあってもいい。そんな気がしてきました。

 でも明日にでも、LOFTあたりで殺風景なメタルのペン立てを買って来ます。

ところで
posted by 米澤穂信 at 20:44| 近況報告