掲載誌:「オール讀物」(文藝春秋)2023年7月号 |
……本物か? |
国道沿いのファミリーレストランで立てこもり事件が発生。偶然近くにいた葛班が現場に向かうと、姿を現した犯人の手には「拳銃」が。
本物か? 客や従業員の避難は完了しているのか?
部下が集めてくる証言者の話を、葛は一つずつ検討する。あのファミリーレストランで、あの瞬間、何があったのか。それがわかれば、「本物」は見抜けるはずだ。
変形フーダニット。
タグ:〈葛警部〉
掲載誌:「オール讀物」(文藝春秋)2023年2月号 |
親父を嫌っていた人は、大勢いるでしょう。でも、殺すほどに憎んでいた人は思い当たりません。いえ、ひょっとしたら酒のはずみで暴力を振るったり、振るわれたりしたこともあったかもしれませんが、それで親父が死んだとして……ばらばらにされるようなことは、なかったと思います。 |
掲載誌:「紙魚の手帖」vol.8 |
お菓子作りとは科学であり、再現性がある |
掲載誌:「小説野性時代」(KADOKAWA)特別編集2022年冬号 |
承知致したきはやまやまながら、まだ約束のものも少々あり且、この月廿日から歸省しますので(□□□したンですからね)今月中には承合いかねます、せめて四月一杯として戴けませんか。それでも宜しかったら書きます。 |
掲載誌:「小説野性時代」(KADOKAWA)vol.224 |
「じゃあ、会議を始めます。題して――星ヶ谷杯準備滞ってるんだけど何かあったの会議。よろしくお願いします」 |
掲載誌:「オール讀物」(文藝春秋)2022年3・4月合併号 |
思えばあの日、私は自らの詩才に見切りをつけたのだという気がする。春雪の言い分はまったく是と出来ないものであったが、それを肯定できないのが私の限界だと悟ったのだ。塩と味噌で酒を飲みながら、私は、私には理解できない小此木春雪よ、君はどこまでも飛んでいくがいいと思っていた。僕は地上にあってそれを見上げよう。 あれから、世は明治から大正に移った。春雪はもう飛ばない。 |
掲載誌:「紙魚の手帖」(東京創元社)vol.2 |
三月のショッピングモールで小佐内さんが謎の存在に気づいたのは、暖房が効いた店内でチョコスプレーがジェラートに沈んだ、その深さからだった。 |
掲載誌:「週刊新潮」(新潮社)2021年12月2日号〜12月23日号 |
高校生の時、わたしの恋人がわたしと姉を見比べて、「どうして?」と言い放ったことがある。まったく、どうして、である。その頃のわたしには、姉とわたしが姉妹であるという事実こそが世界の理不尽さそのものだった。それはそれとしてわたしはそいつを殴って交際を終わらせた。 |
掲載誌:「オール讀物」(文藝春秋) 発売日:2021年1月22日 |
人間の観察力と記憶力はあいまいなものだ。時に誤り、時に正確になる。葛は、二人の目撃者の証言が一致したとしても疑問には思わなかっただろう。三人の言うことが同じだったら、少し疑う。そして四人がまったく同じ証言をしたとなれば、それを頭から信じることなど出来はしない。 |
掲載誌:「ミステリーズ!」(東京創元社) 発売日:2020年12月21日 |
わたし、誰にでも公平でありたいと思ったことは、一度もない。 |
掲載誌:「カドブン」 発売日:2020年10月6日 |
「菩提を弔っておりました」 「何者の菩提を」 「此度の戦で果てた者どもの」 「何十何百とおろう」 「はい」 |
掲載誌:「群像」(講談社) 発売日:2020年8月7日 |
「豚バラの角煮じゃん」 「じゃん、と来たか……」 「豚バラは禁止じゃなかったっけ」 在宅勤務に従い通勤の負荷が軽減され、「夫に貫禄がつき、人が丸くなってきたことに対する緊急の措置として」豚肉はバラを禁ずると妻が宣言したのは、わずか三日前のことであった。 |
掲載誌:「カドブン」 配信日:2020年5月10日、6月10日、7月10日 |
また、かすかに雷鳴が耳に届く。村重は首を巡らして障子を透かし見るが、夏の日は眩しいばかりに照り、ふたたび夕立が来ようとは思われない。 「遠雷じゃな」 「さようにござる」 「こなたに来ねばよいが。落ちねばよいが」 「さようにござるな」 「……儂は将じゃ。雷が来ねばよいと願うだけでは足りぬ。御坊。有岡の開城は、長島、上月のようであってはならぬ」 |
掲載誌:「オール讀物」 発売日:2020年6月22日 |
群馬県杉平町杉平警察署に遭難の一報が入ったのは、二月四日土曜日の午後十時三十分のことだった。通報者は鏃岳スキー場でロッジ「やじり荘」を経営する芥見正司で、一一〇番ではなく杉平警察署に直接電話をかけ、夕食までに戻るはずの客が戻らないと訴えた。十時五十六分にロッジに警官が到着し、事情聴取をしたところ、埼玉県上庄市から来た五人連れの客のうち、四人が戻っていないことが確かめられた。 |
掲載誌:「小説現代」 発売日:2020年6月22日 |
あなたのためを思ってという言葉は、相手を制御したいという毒をどこかに潜ませている。けれど私たちの場合は違うはずだ。 |
掲載誌:「tree」 公開日:2020年6月6日 |
雨はいつでも降るし、どんな時でも季節は巡るものだ。 |
掲載誌:「カドブンノベル」2020年 1月号・2月号・3月号 発売日:2019年12月10日・2020年1月10日・2月10日 |
武士たるものすべては戦、起き伏しも飯を食うことも、仏のことも宝のこともこれすなわち戦じゃ。されば茶は、茶だけは戦にするまいと思うておった。……が、出来なんだ。 |
掲載誌:「オール讀物」2020年 1月号 発売日:2019年12月10日 |
唐天竺の海も案内いたしましょう。凍りつく海、煮え立つ海も見物いたしましょう。いつまでも、どこまでもお心のままにお連れいたします。 |
掲載誌:「オール讀物」2019年 8月号 発売日:2019年7月22日 |
こどものころ、桜を見せるためわたしを連れ出した母が、この木は子孫を残せないのよと教えてくれた。いちばん美しい花を咲かせるように人間が手を加えて、そしていちばん美しい花を咲かせるようになって、その代償として殖える力を失ったのだと。わたしはその話が好きだった。恐ろしいような気もしたけれど、それ以上に、ヒトにそれほどの力があるということが嬉しかった。 |
掲載誌:「オール讀物」2019年 6月号 発売日:2019年6月1日 |
あの仏像は家の守り、村の守護、子々孫々に至るまでゆめゆめ動かすべからず |
掲載誌:「ミステリーズ!」2018年 9月号・10月号 発売日:2018年12月12日・2019年2月12日 |
ひとつ。健吾が断言したことだけは、間違いなく事実だと信じることにする。 ひとつ。この事件に超常現象はいっさい絡んでいないと考える。 ひとつ。犯人の行動には彼または彼女なりの合理性があると認める。 |
掲載誌:「文芸カドカワ」2019年 1月号・2月号 発売日:2019年1月10日・2月10日 |
荒木摂津守様。摂津守様はいったい、なにを斯様に恐れておられるのか。武士の習いを曲げ――織田に楯突いてまで――なにをそれほど恐ろしゅう思うておいでか。官兵衛それが知りとうござる。それを、お聞かせ願いたい。 |
「小説すばる」2018年 9月号・10月号 発売日:2018年8月17日・9月17日 |
物語の基本は復讐と宝探しだそうだ。復讐はきな臭いな。宝探しでお互い一席ぶつというのはどうだ。 |
「小説すばる」2018年 8月号 発売日:2018年7月17日 |
本を探しているんだ。 |
この世が憂きものであるならば、それはなぜだ。この世を憂きものにしているのは、仏か、おのれか。 |
〈一見して病死だった。デュー(デュー・マクラウド刑事)は早く帰りたがっていて、「これは警察の仕事じゃないな」と二度言った。私も同じ意見だった――机に突っ伏した、ラリー・シューメーカーの顔を見るまでは。彼の顔は曲がっていた。数多くの死体を見てきたが、あれほど奇怪な顔は見たことがない。私は呻き、デューを呼んだ。私が見たものを見て、彼は言った。「神さま」〉 |