2014年10月16日

「金曜に彼は何をしたのか」


「小説すばる」2014年11月号(集英社)収録
発売日:2014年10月16日 雑誌定価(本体):852円



 自己満足のための儀式は済んでるのさ。




 雑誌「小説すばる」に寄稿した短篇です。

 期末テストの準備期間として授業は午前で終わり、部活動も委員会活動も禁止になった金曜日。松倉と堀川は、図書室の事務を滞らせるわけにはいかないと残業をしていた。そこには一人、図書委員の地位を悪用して閉室のはずの図書室で試験勉強をする後輩、植田もいた。
 他愛ない会話を交わし、週が開けて月曜日、期末テスト初日を終えた堀川の下に植田がやってくる。相談に乗ってくれませんか、と。植田の兄が、金曜の夜に校舎の窓ガラスを割って侵入したというのだ。
 植田の兄曰く、アリバイはあるという。けれど彼はそれを口にしない。心配している家族のためにも、なんとかその「アリバイ」とは何か、調べる手伝いをしてほしい。そう懇願する後輩を、堀川は邪険には出来なかった。たまたま一緒に話を聞いた松倉と連れだって、植田の家へと向かう。
 一見、特に変わったところのない高校生の部屋。堀川たちはそこから、金曜の夜に彼が何をしていたのか、アリバイを立証しようとする。

913」「ロックオンロッカー」に続くシリーズ第三作になりますが、密接な関係はないので単独でもお読み頂けます。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2014年06月21日

「ほたるいかの思い出」


「小説新潮」2014年7月号(新潮社)収録
発売日:2014年6月21日 雑誌定価(本体):861円



 声に出して、
「負けるもんか」
 と言ってみた。でも、波の音が大きくて、情けないぐらいに小さくしか聞こえない。もう一度、腹に力を入れて、
「負けるもんか」
 と叫んだ瞬間、自分ほど勇敢な小学生がこの世にいるだろうかと思っていた。




 雑誌「小説新潮」に寄稿した短篇です。

 琴座流星群がよく見えるという新月の晩、わたしは新婚の夫とベランダに出て、鍋物をしながら流れ星を待つことにした。ところが用意が早すぎて、夕食が済んでも流星群のピークにはまだ間がある。夫は空ばかり見上げていたが、
「そうか。今夜は、そういう夜か」
 と呟くと、子供の頃の思い出を話し始めた。
 小学四年生の春。夫は虫取り網を持って、こごえるような夜の富山湾へと自転車を走らせていた。春の海に打ち寄せられるというほたるいかを採って、父と母に喜んでもらうために……。
 その思い出話は、やがてむごい結末を迎える。そしてわたしは、夫の話には一つだけ奇妙な点があることに気づいていた。

 山本周五郎賞受賞記念短篇として、選評掲載号に載せて頂きました。
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2013年10月22日

「黒い網」


「オール讀物」2013年11月号(文藝春秋)収録
発売日:2013年10月22日 雑誌定価:1,000円



 正直、偶然だとは思えない。河崎さんは上谷さんの恨みを買っていたし、滝山さんにも迷惑をかけていた。




 雑誌「オール讀物」に寄稿した短篇です。

 過疎により一度は無人となった蓑石地区だったが、市長ご執心の「よみがえれ! みのいし」プロジェクトによって居住者を全国から募り、集落としての実態を回復した。
 しかし選考を経たにもかかわらず、理想的な居住者ばかりとはいかなかった。たとえば河崎由美子は、近隣住人・市役所職員の別なく、気に入らないことがあれば猛然と食ってかかるのだった。

 ある日、蓑石で「秋祭り」が計画される。
 市役所職員である垂水は、部下の観山と共に秋祭りに参加した。表向きはゲストとして、その実、労働力として。
 野外パーティーの様相を呈する「秋祭り」で、垂水は曲がりなりにも活気づく蓑石居住者たちを眺め、ふと感慨にふけった。
 しかし、そこで非常事態が起こる。河崎由美子が突然倒れたのだ。

 救急車で運ばれ、河崎由美子は命に別状なく回復へと向かう。どうやら原因は毒キノコらしい。
 報告書を書きながら、垂水はふと思う。……河崎由美子は、本当に偶然、毒キノコを手にしたのか?
 それとも、大皿料理ばかりで誰もが自由に飲食物を手に取っていた「秋祭り」会場で、河崎由美子にだけ毒キノコを手に取らせる方法が、もしかすると何かあったのだろうか……? 


 割と屈託なくミステリを書いています。
軽い雨」とはシリーズになっていますが、本作からお読みいただいても支障はありません。

タグ:〈甦り課〉
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2013年10月12日

「長い休日」


「野性時代」2013年11月号(角川書店)収録
発売日:2013年10月12日 雑誌定価:800円



 あんたはこれから、長い休日に入るのね。そうするといい。休みなさい。




 雑誌「野性時代」に寄稿した短篇です。

 ある朝、折木奉太郎は自分の身に起こった異常に気づく。
 心身共に調子が良く、気力があり余っている。朝食を作り掃除をして洗濯を済ませ、それでも飽き足らなかった折木は、街へと散歩に出かける。
 取りあえずの目当ては近所の神社。気の向くままだったはずの散歩先で、しかし折木は意外にも、千反田えると会うことになる。

 朝からどこか奇妙だった休日。その中で折木は、千反田から一つの問いを投げかけられる。
 折木奉太郎の信条――やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に。
 これまで千反田を何度か助けてきた折木が、なぜその信条を掲げているのか、千反田はずっと不思議に思っていた。

 問いかけに応じて、折木は話し始める。
 小学六年生の頃、ある「係」だったこと。その「係」で起きたある小さな出来事を、彼はゆっくりと話し始めた。

タグ:〈古典部〉
posted by 米澤穂信 at 22:36| 雑誌等掲載短篇

2013年07月17日

「ロックオンロッカー」


「小説すばる」2013年8月号(集英社)収録
発売日:2013年7月17日 雑誌定価:880円



 頼まれたわけでもないのに、街のヒーローを気取ることもないだろう。




 雑誌「小説すばる」に寄稿した短篇です。

 松倉詩門が行きつけにしていた床屋が、つぶれてしまった。散髪の場所に困っている松倉を、堀川二郎が誘う。――「ご友人の紹介でご本人様・ご友人様どちらもカット料金四割引」のチケットがあったから。

 そうしてある休日、二人は連れだって美容院に向かった。男子二人が肩を並べて散髪に行く現状を、自分たちで笑いの種にしながら。
 彼らは歓迎された。わざわざ店長が出てきて、二人を接客したほどに。店長は二人に小さなビニール袋を手渡した。
「お荷物はロッカーにお預け下さい」
 そして、噛んで含めるように、こう付け加えた。
「貴重品は、必ず、お手元にお持ち下さいね」

 確かに貴重品は手元に持つべきだ……しかし、「必ず」と強調されたことに、二人は小さな違和感を覚える。
 髪を切られながら、二人は「必ず」の意味を問いかけ合う。
 それはただの退屈しのぎ。美容師との会話を苦手とする松倉を助けるための、単なる場つなぎのはずだった。

 しかし、ささやかなこの議論は、いつしか不穏な方向へと進み始めていく。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2013年05月12日

「関守」


「小説新潮」2013年5月号(新潮社)収録
発売日:2013年4月22日



 はい。雨の日も風の日も来ておりますから、もちろん知っていますよ。




 雑誌「小説新潮」に寄稿した短篇です。

「都市伝説」で一本記事を書くことになったライターが、タネに困り果て、先輩の元を訪れる。面倒見の良い先輩は、ライターに伊豆半島で連続している事故について教える。これを亡霊の仕業にでもすれば、記事は一本出来上がると思われた。

 しかし先輩は、ふと思い出したように表情を曇らせる。
「いや、やっぱりそれはやめた方がいいかもしれない。そいつは、ホンモノだって気がするんだ」
 桂谷峠を通る者は、あるカーブを曲がりきれずに落ちて死ぬ……。
 先輩の不安を一笑に附し、ライターは取材へと出かけていく。小田原から三時間、夏の日のことだった。

 そうして訪れた桂谷峠の名も無きドライブインで、ライターは店をやっている老女に話を聞くことにする。
 老女はこっくりと頷き、事故のことなら知っていると告げた。
「雨の日も風の日も来ておりますから」
 と。


「小説新潮」2013年5月号には、マガジン・イン・マガジンとして「Story Seller 2013」が入っています。本作はその中に加えて頂きました。

タグ:『満願』
posted by 米澤穂信 at 08:52| 雑誌等掲載短篇

2012年07月12日

「鏡には映らない」


「野性時代」2012年8月号(角川書店)収録
発売日:2012年7月12日 雑誌定価:680円



 知りたければ鏡を見てきたら?




 雑誌「野性時代」に寄稿した短篇です。

 伊原摩耶花は、買い物に出かけた日曜日、思いがけず中学時代のクラスメートに会う。
 近況を交換するうち、折木奉太郎と同じ部活に入っていることを口にすると、相手は顔をしかめた。
「そっか……。折木がいるんだ。サイアクじゃん」
 そして伊原は思い出す。自分たちが中学生だった頃、折木は確かに、サイアクと言われるだけのことをした。
 中学生活最後の卒業制作で、折木は手を抜いて作品を台無しにしたのだ。デザインを担当した女子生徒は、あからさまな手抜きを前にして泣き崩れた。

 あのとき、クラスメートは折木を非難した。思い出を汚した、と。伊原自身も、そっと目を逸らしたことがあった。
 だけど卒業から一年と少しの間、折木が古典部でしてきたことを思い返すと、ふと疑問が湧く。ひょっとしたら、あれは単に「サイアク」の一言で片づけられる話ではなかったのかもしれない……。

 中学最後の冬、本当は何があったのだろう。伊原摩耶花は、元クラスメートを訪ね始める。
 あの一件にもしも何か事情があったのなら、自分は折木に言わなければいけないことがある、と思いながら。


〈古典部〉シリーズの短編です。
 伊原の一人称は、『クドリャフカの順番』以来になります。

タグ:〈古典部〉
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2012年06月08日

「下津山縁起」


「別册文藝春秋」2012年7月号(文藝春秋)収録
発売日:2012年6月8日 雑誌定価:1,500円



 草木国土悉皆成仏




 雑誌「別册文藝春秋」に寄稿した短篇です。

 西暦873年。火山活動により、遠江国嘉神郡に新しい山が誕生しました。
 その山は下津山と呼ばれ、以前からあった上津山と並び「ふたご山」として親しまれてきました。

 時代が移り変わり地名が嘉神市と改められても、ふたご山は変わらずそこにあり続けました。
 しかし、人々の営みの裏側で、おぞましい「殺し」の計画が進められていることに気づく者はなかったのです……。

「別册文藝春秋」の300号記念に、「時間」というテーマを頂いて書きました。
posted by 米澤穂信 at 13:49| 雑誌等掲載短篇

2012年04月21日

「夜警」(「一続きの音」改題)


「小説新潮」2012年5月号(新潮社)収録
発売日:2012年4月21日 雑誌定価:952円



 煙草の脂で黄色く汚れ、線香の煙に混じってどぶ川の匂いさえ漂ってくるような六畳間が、俺の告解室だった。




 雑誌「小説新潮」に寄稿した短篇です。

 国道60号線沿いに建つ交番に、警察学校を出たばかりの新人、川藤浩志が配属された。
 交番長の柳岡は、新人を一見して嫌な予感を覚える。警官には向かない男……。その予感は、川藤の仕事ぶりを見る中で確信に変わっていく。

 しかし柳岡には、かつて未熟な新人警官を厳しく指導し、失敗した過去があった。
 川藤がいずれ道を踏み外すとしても、自分は口を出すまい。そう決めて数ヶ月、事件が起きる。

 ある秋の夜。これまで幾度も夫の不審行動を訴えていた田原美代子から、110番通報が入った。柳岡たちは万が一に備え防刃ベストを着込み、現場の民家へと急行する。
 呼べども返事がない家からは、時折悲鳴が響く。
 警官たちは警棒を構え、現場へと突入していく……。

 そして柳岡は回想する。
 二階級特進した川藤警部補。やはり、あいつは所詮、警官には向かない男だった、と。


「小説新潮」2012年5月号には、マガジン・イン・マガジンとして「Story Seller 2012」が入っています。本作はその中に加えて頂きました。

タグ:『満願』
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2011年12月17日

「913」


「小説すばる」2012年1月号(集英社)収録
発売日:2011年12月17日 雑誌定価:880円



 もうお子様向きの冗談は終わってる。




 雑誌「小説すばる」に寄稿した短篇です。

 堀川二郎と松倉詩門は、高校二年生の図書委員。誰も来ない図書室で図書当番を務めていました。さんざん下らない話で暇を潰した末、ようやく仕事を始めようとした彼らを、引退した元・図書委員の浦上先輩が訪れます。
 浦上先輩は「ちょっといい話」があると言って、二人をアルバイトに誘います。その内容を聞いて、堀川たちは笑うべきかあきれるべきか躊躇います。……先輩の持ちかけたアルバイトとは、「おじいさんの遺した開かずの金庫」の番号を突き止めてくれ、というものだったのです。

 割とやる気の堀川と、いかにも気乗りしていなさそうな松倉。彼ら二人は先輩の誘いを受けて、日曜日に浦上家を訪れます。
 静かな書斎に鎮座する真っ黒い金庫に相対し、彼ら二人はあれこれと知恵を絞ります。金庫は四枚座。つまり求める金庫の番号は四つということになります。
 おじいさんの金庫に挑む、昼下がりの知恵試し。報酬は先輩と食べる夕ご飯。それは、頭悩ませつつも楽しい時間でした。

 そのはず、だったのですが。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2011年06月22日

「茄子のよう」


「オール讀物」2011年7月号(文藝春秋)収録
発売日:2011年6月22日 雑誌定価:1,000円



 豊子が自分を愚図だと思い始めたのは、六歳の頃である。




「オール讀物」に寄稿した短篇です。


 豊子は三人の子供に恵まれた人生を送り、生涯連れ添った夫に看取られて逝った。
 死の間際に、彼女は自分の夢を見た。悪いこともあった。良いこともあった。
 最期、豊子はずっと忘れていた疑問を思い出す。もう何十年も前、見合いで夫と結ばれたすぐ後のこと。夫は豊子にこう言ったのだ。
「茄子のような嫁だよ」
 夫が豊子を評した、たったひとつの言葉だった。
 あれはどういう意味だったのだろう?


 誌上での推協賞発表・選評掲載に合わせて書きました。
posted by 米澤穂信 at 11:22| 雑誌等掲載短篇

2011年06月12日

「名を刻む死」


「ミステリーズ!」vol.47 2011JUN(東京創元社)収録
発売日:2011年6月12日 雑誌定価:1,200円



 そんな言葉に、いつまでも囚われていてはいけない。忘れなさい。忘れるしかないのよ。




 雑誌「ミステリーズ!」に寄稿した短篇です。


 福岡県鳥崎市で、一人暮らしの老人・田上良造が死亡した。死因は餓死と推定される。
 第一発見者の檜原京介は高校受験を控えており、学校からの帰り道に死体を見つけた。彼は取材陣に、「いつもは元気な人なのに、何日か姿を見てなかったので、気になっていたんです」と話す。

 それは嘘だった。京介は理由があって、田上良造が近々死ぬのではと思っていたのだ。
 真実を誰にも告げられないまま、田上の死はニュースとして消費され尽くした。もう誰も彼の話を聞かないかに思われた。
 しかし、遺体の発見から二十日後、ルポライターを称する女性が京介に接触してくる。

 太刀洗というそのルポライターは、田上良造の人となりを追っていた。
 人に言えなかったわだかまりを解くためには、田上がなぜ一人で死なねばならなかったのかを知るしかない。そう考えた京介は、取材に同行させてくれるよう太刀洗に頼み込む。

 鍵になる言葉は田上の日記に遺されていた。
『私はまもなく死ぬ。願わくは、名を刻む死を遂げたい』
 今際の願いは叶えられたのだろうか。



 日本推理作家協会賞受賞第一作となります。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2011年05月04日

「怪盗Xからの挑戦状」


web掲載(現在は掲載終了)
公開日:2011年5月4日



 美学。
 美学であれば仕方がない。私は力強く頷く。
「気持ちはわかる。大いにわかるぞ、怪盗X!」
「あなたならわかって下さると思っていました、探偵X!」
 そして我々はテーブル越しに、固い握手を交わした。所属する陣営は違えども、我々は美学を追究する同志である。それが汚された時、我々は何としてでもその汚点を拭い去らねばならない。そうでなければ探偵は探偵たり得ず、怪盗は怪盗たり得ないのだ。
 だが助手は、微かに眉をひそめていた。「あ、この人も残念な感じの人だ」と呟くのが聞こえる。




 人を傷つけないことを美学とする怪盗X。ポール・ゴーギャンの名画「オアラマオア」をはじめ、さまざまな財物を盗みだしてきた彼は、世にも稀なる絶品の血赤珊瑚「田端の女王」を狙っていました。
 狙った獲物が長野県のホテル・天弓館に隠されているという情報を掴んだ彼は、変装して下見に向かいます。
 ……そしてその晩、雪と事故に閉ざされたホテルで、一人の男が殺害されます。

 偽の身元を用意していなかったため、怪盗Xは警察が駆けつける前に天弓館を脱出。しかしそのせいで、彼は事もあろうに殺人事件の容疑者になってしまいます。
 自らの美学を守るためには、真犯人を見つけ出さなくてはなりません。怪盗Xは現場の状況を録画したデータを携え、ある人物を訪ねます。

 その人物こそ探偵X。違いのわかる男。
 天弓館での殺人事件は、探偵Xに突きつけられた挑戦状も同然となりました。そしてこの挑戦状は、同時に、読者・視聴者諸賢にも向けられているのです!


 テレビドラマ「探偵Xからの挑戦状!」(第3シーズン)用に書き下ろした短篇です。公開時の情報についてはこちらに記してあります。
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2011年04月22日

「万灯」


「小説新潮」2011年5月号(新潮社)収録
発売日:2011年4月22日 雑誌定価:900円



 この国はいずれ、あの天然ガスを必要とする。一億何千万人というバングラデシュ人が豊かになるためには、エネルギー資源は必ず天井知らずに必要になる。あの資源は、いずれ私の子孫が明かりを点け、食べ物を冷やし、地下水を汲み上げるために使うべきものだ。




 雑誌「小説新潮」に収録された短篇です。

 日本の総合商社・井桁商事は新規事業としてバングラデシュの天然ガスに目をつけ、精鋭スタッフを送り込んだ。彼らはインドとの国境に近い地域を有望と考える。しかし現地は交通の便が悪く、調査は難航した。
 安全かつ迅速にプロジェクトを進めるためには、前線に開発拠点が必須だった。地図を検討した結果、小さな農村・ボイシャク村が拠点として最適だとわかる。

 しかし、村の長老の一人アラム・アベッドは、物資・人員を置かせて欲しいという井桁商事の要求をすげなく撥ねつけた。そればかりか、送り込まれた社員はリンチされ、重傷を負ってしまう。開発計画は暗礁に乗り上げたかに見えた。
 そんなある日、ボイシャク村から手紙が届く。拙い英語で書かれた言葉は短かった。「一人で来い」。
 交渉の糸口になるのなら、危険を冒すメリットはある。開発室長は一路ボイシャク村を目指す。

 そこでは、自らの仕事の正当性をも問われるような、過酷な運命が彼を待っていた。


「小説新潮」2011年5月号には、マガジン・イン・マガジンとして「Story Seller 2011」が入っています。本作はその中に加えて頂きました。

タグ:『満願』
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2010年12月21日

「馬辺里探訪」


「小説新潮」2011年1月号(新潮社)収録
発売日:2010年12月21日 雑誌定価:1,028円



 文章がのさばって風変わりな夢を見る。




 雑誌「小説新潮」の800号記念企画、「八百字の宇宙」に寄稿した掌篇です。

 本の断裁処分場があることで有名な、埼玉県馬辺里(ばべり)を訪ねた際の思い出話です。
 馬辺里だけで日本の断裁需要の八割をまかなえるそうですが、無数の本を葬るこの街には、小さな秘密があるのです。

posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2010年12月17日

「死人宿」


「小説すばる」2011年1月号(集英社)収録
発売日:2010年12月17日 雑誌定価:880円



「ちくしょう、死人宿め。これでまた、さぞや繁盛するだろうよ」




 雑誌「小説すばる」に掲載された短篇です。

 かつて職場の人間関係に悩まされ姿を消した恋人・佐和子が、深い山の中で温泉宿の仲居をしているという。それを聞き、私は取るものも取りあえず車に飛び乗った。
 無事に再会した佐和子は、この宿は「死人宿」だと語る。吹き出す火山性ガスのため、死にたい人間はあっさりと死ねるのだと。交通不便な宿がそれなりに繁盛しているのは、浮き世に疲れた人間が最後の晩餐に訪れるからなのだ。

 そしてその晩、佐和子が「私」に助けを求める。彼女が手にしているのは、旅客の落とし物。その中身は遺書だった。
 宿泊客は三人。
 その中に、「死人宿」に遺書を持って来た者がいる……。

「私」は、死のうとしているのは誰なのか考え始める。
 だが情報は限られており、日はみるみるうちに暮れていく。

タグ:『満願』
posted by 米澤穂信 at 16:02| 雑誌等掲載短篇

2010年11月18日

「軽い雨」


「オール・スイリ」(文藝春秋)収録
発売日:2010年11月18日 雑誌定価:880円



 そして誰もいなくなった。




 ムック「オール・スイリ」に掲載された短篇です。

 高齢化が行き着くところまで進んでいた「与納村蓑石」で、とうとう最後の住人が世を去りました。

 しかし市町村合併後、市長は無人村の再生を掲げ「甦り課」を新設。定住者サポートを柱とする「よみがえれ! みのいし」プロジェクトを立ち上げます。
 事実上の責任者は、以前似たような仕事を任されたことのある垂水邦次郎。彼は並々ならぬ決意で新プロジェクトに臨みます。――成果を上げ、左遷先同然の「甦り課」から脱出するために。

 やがて、応募者の中から二世帯が第一陣として蓑石に移り住みます。
 ラジコン好きの久野とその家族。
 音楽好きの厚木とその家族。
 垂水が抱いた彼らの第一印象は、さほど悪いものではありませんでした。

 しかし垂水はやがて、軋轢が生じるには二世帯でも充分だということを知ることになります。


 短編です。
 初めて使うタイプのトリックを用いました。
 こういうのも、案外楽しいですね。

タグ:〈甦り課〉
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2010年08月23日

「柘榴」


「小説新潮」2010年9月号(新潮社)収録
発売日:2010年8月23日 雑誌定価:900円



 二人の娘を得て、私は自分の別の顔に気づいた。
 容貌を頼りに誰をも手玉に取り、恋多き女を気取っていた過去が信じられないほど、私は娘たちを愛した。水門が開き堰き止められていた水があふれ出るように、いとおしい気持ちは止まることがなかった。
 友人はその変わり様を笑った。
「本当のことを言うと、あんたに愛情があるなんて思ってなかった」




 雑誌「小説新潮」に掲載された短篇です。

 皆川さおりは美しく育ち、その容姿と手管で結婚相手を捕まえます。やがて産まれた二人の娘を、彼女は深く愛します。しかし残念なことに夫は充分な生活能力を備えていませんでした。
 成長した娘たちの将来を心配し、彼女は夫との離婚を決めます。

 夫は、離婚には同意しました。ただし一つだけ条件を付けて。
 親権は自分に。しかしその要求は、娘たちのために離婚を決めたさおりには耐え難いものでした。
 親権争いの調停は不調に終わり、審判が始まります。

 一方、両親の動向は二人の娘たちにも影を落としていました……。


「小説新潮」2010年9月号には、特集企画というか、雑誌内雑誌として「Mystery Seller」が収録されています。本作はその中の一つに加えていただきました。
 取材を通じ、ちょっとだけ離婚手続きに詳しくなりました。

タグ:『満願』
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2010年04月10日

「満願」


『Story Seller3』(新潮社)収録
発売日:2010年4月10日 定価:800円



「この世はままならぬものです。泥の中でもがくような苦しい日々に遭うこともあります。ですが藤井さん、矜恃を見失ってはなりません。あなたはこれまでよく勉強なさったではないですか。わたしはそれを見ていました。天も見ていたに違いありません。……今日はよく願掛けなさいな」




 ムック「Story Seller3」に掲載された短篇です。

 中野に弁護士事務所を構える藤井の下に、一本の電話が入ります。それは彼が八年前から弁護を担当した刑事被告人・鵜川妙子の出所を伝えるものでした。
 藤井にとって妙子は依頼人であると同時に、思い出深い人物でもあります。……苦学生だった頃、藤井は鵜川家に下宿していたのです。

 下宿時代の藤井は、何としても在学中に司法試験を突破しなければとがむしゃらに勉強を続けていました。その藤井を陰で支えたのが、鵜川妙子です。
 しかし藤井が勉学に打ち込む傍らで、鵜川家には暗い影が忍び寄っていました。妙子の夫、重治は決して勤勉な男ではなかったのです。

 学生時代が終わり、藤井が弁護士への道を歩み始めてから五年。凶報がもたらされます。
 ――鵜川妙子が、借金の取り立てに訪れた金融業者を刺殺した。
 藤井は恩人・妙子のため、全力で裁判を戦いました。
 しかし妙子は、まだ戦う余地のある裁判を、控訴審で投げ出してしまいます。懲役八年の判決を受け入れ、長い年月が始まりました。

 出所の電話を受けて、藤井は事件を回想します。
 鵜川妙子が殺人罪を犯したことは間違いない。しかし……。
 歳月のあいだに彼は経験を重ね、既に情熱ばかりの新鋭弁護士ではありません。
 いまの彼は、事件を冷静に振り返ることができるのです。


 短篇です。
 大変な中にも嬉しさがある仕事になりました。

タグ:『満願』
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2010年02月24日

「ナイフを失われた思い出の中に」


『蝦蟇倉市事件〈2〉』(東京創元社)収録
発売日:2010年2月24日 定価:1,785円



 情報を取り扱う上で最もやってはならないのは、当事者の言葉をそのまま伝えることです。先ほどあなたは、真実はいずれ自然と明らかになる、と言いました。ですがあなたもお気づきのように、それはあまりにロマンティックです。
 真実とは、そうであってもらわねば困る状態のことなのです。




 アンソロジー『蝦蟇倉市事件〈2〉』に寄稿した短篇です。

 2007年8月、蝦蟇倉市で一つの殺人事件が起き、容疑者が逮捕されました。
 容疑者は未成年。被害者は、まだ幼い彼の姪です。事件はセンセーションを巻き起こし、多くの報道陣が蝦蟇倉に押しかけます。出所不明の「手記」が出まわるに至って、報道はピークを迎えました。

 数日後。
 蝦蟇倉駅に一人の男が降り立ちます。イタリアの企業に勤め、ビジネスの都合で来日した紳士。彼はこの街で、ルポライターと会う約束をしているのです。
 やがて現れたルポライターは、自分の仕事が終わるまでこの街を観光してはどうかと紳士に勧めます。しかし紳士はルポライターと行動を共にすることを選びました。

 うだるような暑さの中、タクシーで巡る蝦蟇倉市の一日。
 それはやがて、「真実」を巡る短い旅路となっていきます。

posted by 米澤穂信 at 17:02| 雑誌等掲載短篇

2009年04月10日

「リカーシブル――リブート」


「Story Seller2」(新潮社)収録
発売日:2009年4月10日 定価:780円


 わたしはママを気の毒だと思うし、偉いと思う。ただやっぱり、それとは別の問題として。
 サトルは弟ではないのだ。



 ムック「Story Seller2」に掲載された短篇です。

 衰退の一途を辿る小さな地方都市、逆巻町。
 そこに生活の道を失った家族が引っ越してきます。まだ中学生になったばかりの越方ハルカを取り巻く環境は決して恵まれているとは言えませんが、彼女は、何とか新しい生活に慣れようと努めます。
 友達も出来て、学校への行き帰りの道も憶えた頃。ハルカの弟、サトルが奇妙なことを言い始めます。
「初めてじゃないんだ。この家も、お店も、見たことある気がする」
 ただの既視感だと、最初ハルカは歯牙にもかけませんでした。
 しかし、それだけでは片づけられない、ある事件が起こります。

 長篇小説の一部を短篇に凝縮した形になりました。
「リブート」は要するに「再起動」のことですが、「リスタート」と言った方がわかりやすいのではと後で気づきました。
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇

2009年01月18日

「青田買い」


「ビッグイシュー日本版」(ビッグイシュー日本)収録
発売日:2009年1月15日 定価:300円


 言ったでしょ? 可能性を買いたいんです


 雑誌「ビッグイシュー日本版」に掲載された掌篇です。
 ひさしぶりに掌篇を書きましたが、やはり、難しいです。

 青田買いをされた学生の話です。
 書いた後、急激に景気が悪化して、なんだか意図せざる皮肉を含んだようになってしまいました。
posted by 米澤穂信 at 01:05| 雑誌等掲載短篇

2008年06月12日

「連峰は晴れているか」


「野性時代」(角川書店)56号収録
雑誌発売日:2008年6月12日 雑誌定価:840円



 放課後に、ヘリが飛んで来た。
 ぱらぱらという回転音が近づいてきて、驚くほど近くなって、なかなか去らなかった。あんまり長く頭上にいるので、もしかして校庭に下りるのかとさえ思い始めた頃、ようやくのことで遠ざかっていった。




 雑誌『野性時代』に掲載された短篇です。
〈古典部〉シリーズです。

 放課後の地学講義室には、古典部の四人が揃って思い思いの放課後を送っていました。突然聞こえてきたヘリの音に、四人の注意は引きつけられます。やがてヘリが去った後、折木はふと思いだして言いました。「小木が、ヘリ好きだったな」。
 彼が言っているのは中学校の英語教師のことでしたが、同じ中学出身の二人、福部と伊原は首を傾げました。そんな記憶はないというのです。
 会話と記憶をすり合わせていくうち、折木はある可能性に気づきます。たった一度だけ「ヘリが好き」になった教師。彼にその日、何があったのか。
 折木はそれを知るため、市立図書館に向かいます。

「記憶の中の殺人」というパターンも、挑戦し甲斐がありそうです。
 あ、本作には、殺人は関係ありません。

タグ:〈古典部〉
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2008年04月10日

「玉野五十鈴の誉れ」


「Story Seller」(新潮社)収録
発売日:2008年4月10日 定価:780円



 わたしの弱さは結局生まれつきのものだったのだと、いまになって思う。
 最後の時まで、わたしは抗うということをしなかった。何もしないのが正しいのだ、従うのがいちばん良いのだと、わたしは自分の前に、百の理由を並べ立てた。




 雑誌「Story seller」に掲載された短編です。

 駿河灘を望む土地、高大寺。ここに小栗という家がありました。
 高大寺でも名うての分限者、小栗家。しかし最近は家運に衰えが見られ、一家の期待は、跡継ぎの小栗純香の一身に寄せられていました。
 純香の十五歳の誕生日。「人を使うことを覚えた方がいい」という理由で、一人の使用人が純香の専属になります。小栗家の思惑に反して、彼女、玉野五十鈴は、純香にとって初めて心を許せる相手になりました。
 それまで古典漢籍ばかりを読んできた純香。しかし五十鈴は小栗家の目を盗んで、純香にいろいろな小説を教えます。これまで知らなかった喜びを知った純香は、小栗家にささやかな反抗を試みます。大学に行くためと口実を作り、高大寺を脱け出すことに成功したのです。
 掴み取った自由。五十鈴と過ごす日々。大学に存在した〈バベルの会〉での交友。純香には全てが新鮮で、素晴らしいものに思われました。
 ……しかしそれも、長くは続きません。ある日、高大寺から一通の電報が届きます。

〈バベルの会〉シリーズの四作目。とりあえずはこれで、シリーズ終了のつもりです。


*『儚い羊たちの祝宴』に収録済


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2008年01月22日

「山荘秘聞」


「小説新潮」(新潮社)2008年2月号収録
発売日:2008年1月22日 定価:780円



 そうして毎日の仕事をこなしながら、三ヶ月が経ち、半年が経ち、一年が経ちました。飛鶏館を囲む白樺たちは葉を茂らせ、緑を濃くし、やがてそれを散らせ、雪に沈みました。吹雪の日を幾日か耐え、凍りついていた小川もとけ、暦が再び四月を迎えた頃、わたしはふと、気づきました。
 ところで、お客さまは、いずこに。
 わたしの管理する飛鶏館は、一年間でただのひとりも、お客さまを迎え入れたことがなかったのです。




 雑誌「小説新潮」の2008年2月号に掲載された短編です。

 とある屋敷に長年奉公していた、屋島守子。主家の財政が傾き、とうとう暇を出されることになります。
 再就職先を斡旋してもらいますが、紹介されたのは山奥の避暑地・八垣内の別荘管理人。どちらかといえば都会派の守子には不満な職場環境でしたが、実際に建物を見て、その気持ちが大きく揺らぎます。
 その別荘は、絶美の自然の中に技術の粋を凝らして建てられた、見るも鮮やかな逸品だったのです。
 守子はその別荘を、心をこめて管理します。いつ、主家の人間が訪れても良いように。厳しい環境の中に建つ別荘が、劣化しないように。食料燃料、医薬にリネン、万事怠りなく整えます。深い雪に閉ざされる冬の間も、彼女はたった一人、別荘を守り続けたのです。
 そうして一年が過ぎたころ、彼女はふと気づきます。……この一年というもの、ただの一度も、ただの一人も、客が訪れはしなかったことに。
 悶々とする守子。そんなある日、彼女は別荘の近くで人影を見つけます。気を失い怪我を負って雪の中に伏せる男。彼はどうやら、遭難者のようでした。
 屋島守子の、心をこめた看護が始まります。

「身内に不幸がありまして」「北の館の罪人」とは、ゆるやかなシリーズになっています。


*『儚い羊たちの祝宴』に収録済


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2007年12月22日

「北の館の罪人」


「小説新潮」(新潮社)2008年1月号収録
発売日:2007年12月22日 定価:780円



 殺人者の手は赤い。しかし彼らは手袋をしている。



 雑誌「小説新潮」の2008年1月号に掲載された短編です。

 母ひとり子ひとり、貧しい暮らしをしていた内名あまり。その母が、世を去るときに言い残しました。「六綱の家に行きなさい。わたしは、あのひとからもっと、受け取るものがあった」。あまりはその言葉通り、六綱家の館を訪れます。
 現当主の六綱光次はあまりを受け入れ、そして彼女を、別館づきの小間使いとします。別館、または「北の館」に、住人はただ一人。痩せて不健康そうな男、六綱早太郎です。
 小間使いとして、早太郎の世話を焼き、北の館を掃除するあまり。館から出られない早太郎に頼まれ、あまりは、用途のわからない買い物を繰り返します。あるときは卵を、あるときは凧糸を、あまりは買ってきます。その日々の中で彼女は、早太郎がなぜ北の館に軟禁されているのか、そもそも北の館とは何なのかを知ることになります。……そこは、六綱家の歪みを閉じ込める場所。豪奢なる座敷牢だったのです。
 やがて、早太郎は体調を崩します。医者さえ呼んでもらえず、足元も覚束ない彼は、最期に、これまでの買い物の意味をあまりに打ち明けます。
 そこには、北の館からついに出ることがなかった早太郎の、ある思いが込められていました。

 フィニッシング・ストロークものです。
 が、「最後の一行」ではありません。もうちょっと長いです。「最後の一頁」です。
 媒体が「小説新潮」、挿絵が藤田新策氏。ということで、「身内に不幸がありまして」とは、ゆるやかなシリーズになっています。


*『儚い羊たちの祝宴』に収録済


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2007年12月12日

「恋累心中」


「ミステリーズ!」(東京創元社)26号収録
発売日:2007年12月12日 定価:1260円


 雑誌「ミステリーズ!」の26月号に掲載された短編です。

 三重県のある町で、高校生が自殺します。
 それ自体は比較的よくあることだったのですが、目新しかったのはそれがただの自殺ではなく、「心中」だったこと。そして、彼らが自殺した地名がロマンティックだったことです。この心中事件は「恋累心中」として、世の注目を浴びることになります。
 週刊誌記者の都留は、直ちに現地に飛んで取材をするよう命じられます。編集部は都留記者に、フリーライターのサポートをつけました。あまりフリーライターが好きではない都留記者は、内心は苦々しく思いながら、三重県へと向かいます。
 調べ甲斐のない事件だと思われた「恋累心中」。……しかし取材を続けるうちに、都留記者は事態がそう単純ではないことに気づきます。

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2007年11月24日

「川越にやってください」


「ミステリマガジン」(早川書房)2008年1月号収録
発売日:2007年11月24日 定価:840円


 雑誌「ミステリマガジン」の2008年1月号に掲載された短編です。

 ミステリ作家の米沢さんは、鮎川賞授賞式の前日、夢を見ました。
 彼はその夢の物悲しさに、目覚めた自分が涙しているのに気づきました。
 そして彼は依頼を受けて、慇懃な文体で、その夢をエッセイに書くことにします。
 その最初の一文は、こんなふうでした。

 こんにちは。米沢です。

 ショートショートまたはエッセイを書きませんかと言われて、ショートショートかつエッセイを書いたら、短篇の長さになりました。
 埼玉県川越市が舞台では、ありません。お住まいになっている方、すみません。
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2007年11月10日

「音楽がなければ生きられない」


読売新聞夕刊掲載
新聞発売日:2007年11月10日


 読売新聞夕刊の、「てのひら小説館」に掲載していただいた掌篇です。
 ひさしぶりに掌篇を書きましたが、やはり、難しいです。

 あるメロディーが耳から離れない子の話です。
 文中では性別を明示しなかったのに、西島大介氏の挿絵では女の子になっているのに驚きました。さすがです、そのつもりでした。
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2007年07月12日

「やるべきことなら手短に」


「野性時代」(角川書店)45号収録
雑誌発売日:2007年7月12日 雑誌定価:840円



 やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に。




 雑誌『野性時代』に掲載された短篇です。
〈古典部〉シリーズです。

 神山高校一年生、折木奉太郎。彼は「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」という生活信条をいだいてます。
 高校入学間もない彼は、しかし、どうしようもない成り行きのため、〈古典部〉に所属することになります。新しい環境、そして新しい知人。「省エネ」を掲げる彼は、戸惑わざるを得なかったのです。

 四月。ある雨の日。折木の元を友人・福部里志が訪れます。
 つれづれの話の末、福部里志が語りだしたのは、「神山高校七不思議」でした。彼は言います。「この僕が、ありふれた『学校の怪談』なんかを面白がると思うかい? 違うよ。面白いのは、こういう噂が語られ始めたって事実そのものに決まってる」。そう嘯きながらも、語りだす彼は案外、楽しそうではありました。
 ところが、その話を聞き終えた折木は、さっと顔色を変えるのでした。なぜならその「話」は、あってはならないことを示唆していたからです……。

 翌年一月の話「あきましておめでとう」の後は、入学直後の四月の話です。
 ギャップがあります。


*『遠まわりする雛』に収録済


タグ:〈古典部〉
posted by 米澤穂信 at 00:00| 雑誌等掲載短篇